Rane - MP2015

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  • クラシックなロータリーミキサーを称賛するハウス・テクノ系DJは多い。ロータリーミキサーは非常に音楽的なミックスを可能にし、音楽にヴィンテージな温かさを加え、ブースや自宅のセットアップを優雅でユニークなものに変えてくれる。しかし、ロータリーミキサーのシステムにはチャンネルごとのEQ(別で用意するアイソレーターはマスターミックスのEQとして機能する)が備わっていないため、所謂リニアフェーダータイプのオールインワン・ミキサーとはミックス作業が異なってくる。慣れるまでに労力を要することと、セットアップが特に決まっていないことから、現場に置かれているロータリーミキサーのシステムに不慣れのままプレイを始めるDJも多く、盛り上がったフロアを前にしていても最初の数曲のミックスが「最高の体験」にならない時もある。 DJがクラブやフェスティバルで問題なく扱えるオールインワン・ロータリーがあれば、ロータリーをニッチな存在から普通の存在へと変えてくれるはずで、ここ数年間でその候補がいくつか登場している。そのひとつ、フランスのE&S製のゴージャスなサウンドのコンパクトな4チャンネルロータリーミキサーDJR 400はスマッシュヒットとなったが、大量生産ではなく受注生産のため、DJやクラブは手元に届くまでにかなりの時間を待つことになる。また、Floating Pointsが開発に関わったIsonoeのFP Mixerは、発表当時こそ大きな話題となったが、一般人にはハイエンドすぎるミキサーだった。実際、本人以外に所有している人がいるのかさえも明らかではない。 その中で登場したRaneのMP2015は、業界待望のロータリーミキサーになる可能性がある。当然ながらハイエンド(そして高価格)だが、DJシーンにおいて、ロータリーミキサーの生産で特に評価が高い、経験豊かなハードウェアメーカーが開発しているという点は信頼できる。携行性は良いとは言えず、頑丈な木製フレームに囲まれるように黒と銀色の大量のノブが置かれたこのミキサーのルックスは、さながらヨットの操縦席にでも置いてありそうなものだが、オールインワン・ミキサーなので簡単にブースやフェスティバル会場に設置することが可能だ。そしてサウンドこそがロータリーミキサー最大のアドバンテージだと言う人も、Raneの温かみのあるサウンドとパンチの効いた低音には満足するだろう。 筆者がオフィス常駐のAllen & HeathのミキサーからこのMP2015に変えた時に最初に気付いた違いが、そのサウンドだ。アナログレコードもデジタルファイルも明らかに温かいサウンドに変わり、個々のトラックがまとまって聴こえた。通常のミキサーでは、プレイバックの適正レベルの調整が難しい時がある。つまり、中域がおとなし過ぎるのにも関わらず、低域が出過ぎたり、高域がきつ過ぎたりする時があるのだが、MP2015ではレベルを下げても上げても、フラットでバランス良く鳴っており、低域は出過ぎることなくパンチがあり、高域には痛さを感じさせない煌びやかさがあり、中域は美しく音楽的なサウンドを奏でた(Allen & HeathとのABテストがこれを裏付けている)。また、テストしたオフィスの音響はお世辞にも良いとは言えなかったが、筆者の自宅では多少その点が向上したため、このミキサーの精度の高さに気付くことになった。Raneと自宅のミキサー(Ecler)は共にAllen & Heath Xoneよりも温かいサウンドだが、だからと言ってMP2015はただ甘く寛容なミキサーという訳ではなく、ハイハットが入ってきた瞬間、筆者はターンテーブルの針を交換しなければならないこと、そしてその針がかなり痛んでいたことに気付かされた。 このミキサーの大きなアドバンテージは、素晴らしいサウンドにある。特にこのミキサーに支払う値段を考えればそのアドバンテージの大きさが簡単に想像できるだろう。しかし、この価格はMP2015がプロ、つまりクラブやサウンドシステム業者向けであることも意味している。クラブやフェスティバルへの導入に際してクラシックなロータリーシステムが不利である最大の理由は、誰もが順応できるような特定のセットアップが存在しないことだが、Raneはこの問題を大胆に解決している。まず、クラシックなロータリーシステムのようなミックスをしたい場合は、本体上部に配置されている3バンド・24dB/オクターブの強力なアイソレーターが使用できる。この3個のスムースなノブは各帯域を完全にカットできる一方、+10dbまでのブーストもできる。またクロスオーバーポイントの設定が気に入らない場合は、調整用のノブが用意されているので、アイソレーターのキャラクターを幅広く変えることができる(個人的には両ノブともに12時、つまり225Hzと2.8KHzに設定するのが良いように思えた)。また、アイソレーターを使いたくないという人は、4チャンネルそれぞれに備わった3バンドEQを使用すれば良い。EQセクションの下にはハイパス、ローパス、そしてPioneerスタイルのロー&ハイの3種類が切り替えられるフィルターがあり、その最右部にはAllen & Heathスタイルのレゾナンスノブも配置されている。そして最下部にはヴォリュームノブ4個が配置されているが、MP2015にはミックスに必要なオプションが豊富に備わっているので、その更に下にリニアフェーダーが配置されていてもおかしくないと思ってしまうほどだ。正直に言わせてもらえば、MP2015よりもサウンドをブレンドするためのオプションが備わっているミキサーは思いつかない。また、各チャンネルのインプットがフォノ・CD/ライン・S/PDIF・USB・AUXと豊富に揃っている点も触れておくべきだろう。MP2015は4バンドEQに拘りたい人を除くすべての人を満足させるはずだ。 MP2015が秘めるミックスの可能性は通常のミキサーの更に上を行っている。MP2015には5番目のチャンネル「Submix」も備わっており、これは他のチャンネルからのシグナルを自由にミックスできる(または5チャンネル目としても使用できる)他、独自のEQとフィルターも備わっている。筆者はエフェクトループに連動させる以外での使用方法を見いだすことはできなかった(ルーティングと操作は非常に簡単だ)。また、サウンドカード(24bit/96kHz)が内蔵されているので、デジタルDJもすぐに使用出来る(ただし、デジタルDJ用のソフトウェアをコントロールしたい場合は、自分のコントローラを持ち込まなければならない)。また、そのサウンドは他のルートからも出力できる。サウンドは各チャンネル、またはメインミックスから取り出せるようになっており、筆者はテストセッションをメインミックスから出力してレコーディングした。 大量のミックスオプションとノブは、このミキサーに慣れるまでに少し時間がかかることを意味する。自分のやり方が決まっていない人ならば尚更だろう。筆者の場合は、アイソレーターをTheo Parrishのようなワイルドなアクセントとしてではなく、微妙なトーンコントロールとして使用し、ミックスは各チャンネルのEQとヴォリュームノブで行った。この選択は恐らく個人的な好みによるものだと思うが、もしかするとデザイン上の問題もあったのかも知れない。筆者としては、アイソレーターとヴォリュームノブの距離が近い方が良かったように思う。また、テストを始めてすぐの頃は、ノブの抵抗がもう少し強くても良いのではと感じたが、慣れた今は気にならない。体が記憶してしまえば、非常に正確なコントロールが可能になる。結局のところ、このミキサーの感触とサウンドは素晴らしい。ヴィンテージのBozakやUrei(またはFloating Pointsのモンスターミキサー)を操るとある種の喜びが感じられるが、MP2015よりも嬉しいかというと、そこには疑問が残る。更なる機材がプロフェッショナルな現場に持ち込まれていく中で、DJたちはMP2015を新たなスタンダードとして考えるようになるはずだ。 Ratings: Cost: 3.5 Versatility: 5.0 Sound: 4.9 Build: 4.8 Ease of use: 4.1
RA