BOOF - The Hydrangeas Whisper

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  • Maurice Fultonのように聴くものを混乱させるダンスプロデューサーはなかなかいない。ボルチモア出身の彼は80年代後半から活動を続けており、その間、The Basement Boys、Jimi Tenor、そしてもちろん、彼のぶっ飛んだ妻であるMutsumi Kanamoriとコラボレーションを繰り広げてきた。彼の数少ないインタビューのひとつに、RBMAの受講者を前に彼自身がビートを制作するものがある(インタビュアーを務めたのは彼のファンを自称するGerd Jansonだ)。しかし、彼がビートを作るのを目にした後でも、その結果(典型的な勢いだけのファンクだった)はやはり論理的に説明できるものではなかった。過去15年間に渡ってFultonは「花」をテーマにしたプロジェクトであるBOOFで断続的に活動しており、彼の愛らしい一面が展開されている。彼の演奏および制作技術の卓越ぶりはこれまで話題にされることはなかったが、ダビーなシンセと自由に流れるギターインプロヴィゼーションを組み合わせ、様々なジャンルに出入りする『The Hydrangeas Whisper』は、その流れに逆らう意欲作だ。 Fultonがどれだけ変化したのかを知るには、彼の2006年作のアルバム『A Soft Kiss By A Rose』の1曲目に収録されていた"The Soft Kiss"と、『The Hydrangeas Whisper』のオープニングトラック"Intro To It's Sunny Outside"を比較してみるといい。両トラックは構造が似ているが、前者で聴くことのできる躊躇いがちなジャズ伴奏が、本作ではGöttsching風のエレガントなフレーズへと花開いている。しかし、こうした楽曲を本当に引き立てているのは、ドラムマシーンのグリッド上に人間味のあるリズムを融合させるFultonの手腕だ。"Cat Soulcat Strut"では、ハンドドラムによる2分間のアウトロによって軽やかな動きのロックフュージョンが実現している。続くトラック"Backlash"ではクラシックなRobert Hoodサウンドに向かっているが、緩やかながらも熱狂的なボンゴ演奏によってそのテクノグルーヴが崩されている。 Fultonの有名なトラックのひとつに、2008年のSyclops名義による"Where's Jason's K"がある。デザイナードラッグを面白く参照したトラックだ。今回はそこからさらに押し進め、アルファベット1文字の名前を持つ新たなドラッグを生み出しており、それを実在/想像上の友人たちと一緒に提示している。今にも噛みついてきそうなオルガンソロと一緒に旋回する"Pete Found His Z"で問題としている粉末ドラッグは、高揚力のあるアッパーに違いない。"Emi's M"はほぼ間違いなくサイケデリック系ドラッグのことだろう。Dave Brubeckによる"Take 5"のグルーヴをからかったような歌に合わせてギターが加えられ、トリッピーなシタールのドローンで締めくくられている。"Tomoko's O"はアヘンを指しているのだろう。このトラックでは中年オヤジ的ロックギターが日暮れの中に滑りこんでいる。ハッキリとはしていないが、今回、Fultonは様々なスタイルに挑もうとしているのだろう。各要素を繋ぎとめるのは"Birgit Boogie"や"Just On The Swings"のようなダンスフロアキラーだ。後者はタイトルが示唆するとおり奔放な無邪気さを捉えた繊細で妖艶なファンクトラックだ。 『The Hydrangeas Whisper』は過去10年に渡ってFultonが発表してきたアルバムの最良部分を蓄積したものであるように感じる。彼はスタイルを跨ぎ、トラック間に無音部分を挟まないことで、DJセットのように感じさせ、ハウスのLPが抱える問題を克服している。実際のところ、彼の精巧なサウンドはこのフォーマットには自然な印象だ。多くの匿名プロデューサーが、同等に聴き分けのつかないトラックを提供しているような状況で、Fultonは奇妙で驚くほどパーソナルな路線を切り出しているのだ。
  • Tracklist
      01. Intro To It's Sunny S Outside 02. Birgit Boogie 03. The Hydrangeas Whisper 04. Cat Soulcat Strut 05. Backlash 06. Pete Found His Z 07. Emi's M 08. Just On The Swings 09. Tomoko's O 10. Solar Eclipse On A Friday Morning