Pioneer - HRM-7

  • Published
    Jun 3, 2015
  • Released
    February 2015
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  • 先日このコーナーにて紹介したHDJ-C70しかり、パイオニアのヘッドフォンと言うとDJユースなイメージが強いが、今回紹介するHRM-7はプロデューサーをはじめとした音楽制作者に向けた密閉型スタジオモニター・ヘッドフォンである。新開発の40mm口径のHDドライバーを搭載し、4Hz~40kHzの超広帯域再生が本機のポイントだが、その目的はマスター音源を忠実な再生するためと言える。なぜここまでレンジの広さが必要かというと、音楽制作時の環境—すなわちサンプリング・レートのハイスペック化—に起因している。一般的に市場でリリースされるCD音源のサンプリング・レートは16bit/44.1kHz(マスタリング時にダウン・コンバートされることが多い)だが、DAWによる音楽制作は多くの場合、24bit/48kHzで行われている。さらにアコースティック楽器のように精細な空間描写が求められる音楽だと、96kHzや192kHz、また近年では2.8MHzや5.6MHzといったDSDに対応した録音および再生機器も登場し、デジタル領域における音楽制作時のサンプリング・レートは高まっている。当然、サンプリング・レートが上がれば高解像度なサウンドをモニターする環境にもワイドレンジな再生力が求められる。となれば、ヘッドフォンもハイスペックな品質が必要になってくるというわけだ。 前置きが少し長くなったがHRM-7のスペックを見ていこう。筐体はブラックで統一されており、ハウジングはマット加工がされたプラスチックとメタルを組み合わせたクールな雰囲気。ハウジングは広がりのある音場を再生するため、耳をすっぽりと覆い込む大きめのデザインを採用。容積の広いバスレフ・チャンバーで低域のレスポンスを向上させているほか、低反発と高反発のクッションとベロア素材を組み合わせたイヤーパッドが快適なフィット感を実現している。また、先述した高解像度再生に対応するHDドライバーは最大で2,000mWの入力に対応し、大音量時の音の歪みを最小限に抑えている。 ここからは実際に本製品をテストした所感をお伝えしたい。HRM-7を梱包されたハコから出してみると、かなりボリューム感のあるルックスだが、持ってみると330gという重量のわりには軽く感じた。頭に装着してみると、大きめのイヤーパッド・デザインと二重のヘッドバンドによる適度な側圧のおかげでフィット感はすこぶる良い。ワイドレンジがポイントということなので、空間的な広がりを感じやすいSteely DanやAaron Nevilleなどをリファレンス音源に、さらに24bit/48kHzのハイサンプリング・レートの音源でもテストしてみた。まず印象に残ったのはもっちりとした中低域の豊かさ。密度の高い中域は特筆すべき点だろう。耳周りに少し空間があるせいか、音像はタイトというよりもゆとりがあるよう。高域もパキッとクリアに聴こえるというよりも、ナチュラルになニュアンスが強く、24bit/48kHzの音源だと高域のレンジも多少広がるが、ハイサンプリングレートの解像度を十二分に再現できているかというと、期待していたほどではなかった。 続いてApple Logicを用い、サンプリング・レートは24bit/48kHzにセットして音楽制作時のモニターとしてテスト。簡易的にビートやシンセを鳴らし、アタックやディケイ、フィルターやゲートに加えて、コンプレッサーやEQ、リバーブやディレイといったエフェクトなどを操作しながら、掛かり具合をモニタリングしてみたが、それぞれの効果はとても把握しやすかった。その理由として中低域の情報量に優れた特性が挙げられるだろう。量感のある低域のおかげでキックやベースの細部調整がしやすいほか、中域も豊かで音の表情も判断しやすい。定位もくっきりと見えるのに加えて、ゆとりのあるハウジングのおかげでリバーブやディレイの広がりも捉えやすく空間表現にも長けている。リスニングの際に気になった高域の解像度も音楽制作の面では問題なかった。というのも、高域のレンジが広すぎるモデルは、ヘッドフォンとスピーカーで聴き比べをしたときに差が生まれ、バランスを取りづらくなることもある。その点でも本機のレンジ感はちょうどよい塩梅だと感じた。 近年ではハイレゾ対応を売りにした、ワイドレンジなヘッドフォンが多く登場しているが、そのいずれもハイスペックで高価格なモデルが多い。価格帯を考慮すれば、本機はハイレゾ対応のエントリー・モデルであるし、本機を試して高域の解像度に物足りなさを感じるのなら、より上位のモデルを選択すべきだろう。だが、それよりも本機の魅力は音楽制作時のモニター・ヘッドフォンとしてのバランスの良さにある。長時間装着しても耳が疲れにくいフィット感も素晴らしいし、音作りがしやすい中低域の情報量、適度に広がりのあるサウンドは、ヘッドフォンで音を作り込んでからスピーカーでリスニングしたらイメージと違う音になった…というようなヘッドフォン・ミックスにありがちなミスも回避しやすい。この広すぎず狭すぎない適度なレンジ感とバランスの良さが、音楽制作においては威力を発揮してくれるはずだ。 Ratings: Cost: 3.0 Versatility: 3.5 Sound: 3.0 Build: 3.5
RA