Squarepusher - Damogen Furies

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  • Aphex Twin、Boards Of Canada、Autechreといった多くのWarpのベテランアーティストとは異なり、Squarepusherはステージに立つことを好み、これまでも常に天性のパフォーマーとして活動してきた。卓越したドラマー/ベーシストとしてのバックグラウンドは自身の作品に流れるような音楽性を与え、舞台での彼をダイナマイト級のショーマンへと変身させる。活動初期のTom Jenkinson(Squarepusher)がリスナーを圧倒するために駆使していた超絶的な制作技巧も、後に即興演奏に置き換えられている。彼の13枚目のアルバム『Ufabulum』は、IDMというよりもEDMに近い大げさに誇張した表現を取り入れ賛否両論を呼んだ。それから3年が過ぎて発表される『Damongen Furies』は、『Ufabulum』とそれほど違う内容である訳ではないが、今回はどのトラックも一発録りで編集は一切無し、というシンプルなレコーディング手法を取っており、リスナーの知覚情報がオーバーロードすることを防いでいる。 『Damogen Furies』はこの10年間でJenkinsonが制作に使用してきたソフトウェアのみで制作されている。そう考えると、活動初期のサウンドがあれほどの輝きに満ちていたことは驚きだ。焼け付き燻るエレクトロニクス、轟き切り裂くビート、万力で締めあげるようなアレンジメント。こうした音使いは『Do You Know Squarepusher』や『Go Plastic』での殺伐とした瞬間を彷彿とさせる。そこには気楽な感覚もあるのだが、例えば"My Red Hot Car"のようにキャッチーで取っ付きやすさがある訳ではない。例えば、"Stor Eiglass"はユーフォリックトランスのようなメロディを用いつつ、Jenkinsonという同心円状を駆け巡る音楽を実現しているし、一方で"Blatang Ort"は不協と凶暴性に満ちた全く異なる内容となっている。Squarepusherのこうした二面性が好きであれば、『Damogen Furies』には多くの聴きどころが収録されている。 際限無く広がりのある圧倒的な音楽にはひとつのしっかりとした軸が必要だ。『Damogen Furies』の場合、この軸が様々な場所に存在する。重々しいシンセのメロディ、殺人的なドラムアレンジ、そして、ノイズの嵐が屈強さを見せつける"Rayc Fire 2"では、どんなに好戦的なムードになっても、安定して上昇する軌道がそこはかと保たれている。"Exjag Nives"では明るめのアプローチでSquarepusherらしさのあるメロディアスなドラム&ベースが解体されており、楽園にいるかのようにネオン輝く音色によって、強化したブレイクビーツやドラッギーなウェーブフォームが掻き乱れる空間が生まれている。 しかし、彼が様々な手法を同時に加えようとして、いかがわしく感じられるトラックもある。"Kontenjaz"や"Baltang Arg"での大げさなアレンジは、良く言ってもくだらないプログレッシブエレクトロ、悪く言えば頭の悪そうなEDMにまで成り下がっており、Jenkinsonのサウンドに反応するLEDの照明セットを盛り上げるネタにしか聞こえない。 Jenkinsonのキャリアを見た時、現時点の彼は自分がやりたいことを何でもできる能力と影響力を持っている。壮大なマルチメディアショー、革新的な音楽ロボット、オーケストラによる楽曲の再アレンジ - その全てに今の彼は手が届くのだ。『Damogen Furies』もそうした膨大なポテンシャルをうかがわせてはいるものの、上手く仕上がっているのはJenkinsonが自分の才能を厳選している時だ。『Ufabulum』は、発表当時に構築されていたパフォーマンスのけばけばしい部分を取り出したかのような印象だったが、『Damogen Furies』はもっと強固で充実しておりひとつのアルバムとして完結している。ツアーで彼のライブを引き続き見たいと思う人もいるだろうが、本作ではそのライブセットが直接リスナーのヘッドフォンに届けられているのだ。この点はもしかすると、ステージ演奏からキャリアをスタートした神童が最も原点に接近している状態なのかもしれない。
  • Tracklist
      01. Stor Eiglass 02. Baltang Ort 03. Rayc Fire 2 04. Kontenjaz 05. Exjag Nives 06. Baltang Arg 07. Kwang Bass 08. D Frozent Aac
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