Max_M - Dissertation

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  • あるDJのセットをダンスフロアで数時間聴いていて、かかっているトラックは知らないものばかりでも、「この曲は何だ?」と何度も考えてしまう。テクノに興味を持っている人なら見覚えのある状況ではないだろうか?そうしたトラックは大概、キックドラム、ベースライン、ハイハット、ブリープ音以外に使われている要素は無く、結果として、トラックの正体を追うことはほぼ不可能であることがほとんどだ(少なくとも筆者の場合はだが)。しかし、素晴らしいテクノセットはこうしたトラックから成り立っていることが多い。Marcel Dettmann、DVS1、Robert Hood、Rødhåd、どんなDJであれ、質の高いツールトラックは優れたDJのレコードバッグに欠かせない基本要素だ。こうしたツールトラックをMax_Mのように生み出せる人はなかなかいない。イタリア人の彼は自身のレーベルM_REC LTSを通じて、音数の少ない武器を数々発表してきたが、今回は、Max_M本人のスタジオからレーベル最新作となる「Dissertation」が届けられた。 多くのダンスミュージックと比べても、「Dissertation」に収録された3つのトラックでは、ほとんど展開が起こらない。素晴らしいのは"Exceeding Brightness"と"Architectural Lie"だ。"Exceeding Brightness"で使われているのは、ブリーピーなフレーズ、ハット、抑制したスネアのみであるにも関わらず、それらを組み合わせることで実に素晴らしいホンモノの陶酔性を生み出している。全6分間に渡って、ビートに展開が起こるのは2回だけ、しかも短い展開であるため、トラックは最初から最後まで一定してスムーズに仕上がっている。ほんの少しだけエネルギー多めの"Architectural Lie"は、壮大な音素材を使っているが、やはり、同様の方向性だ。スタブが互いの周りを旋回し、その奥ではパーカッションが刻まれており、こちらも方向感覚を失いそうな奇妙な心地よさが漂っている。EPを締めくくるのは、Max_Mによる新たな傑作"Scape Sequences"。前述の3曲に似たパーツを使いながらも、よりモノトーンなトラックになっている。 「Dissertation」は普遍的なレコードであると確信している。しかし、それは分かりやすい意味での普遍性ではない。おそらく、本作が年末のチャートに登場することはないし、さらに言えば、次の10年間、"Architectural Lie"を口ずさむような人はまずいないはずだ。しかし、テクノがクラブでプレイされる限り、「Dissertation」は必要とされ続けるだろう。
  • Tracklist
      A1 Exceeding Brightness B1 Architectural Lie B2 Scape Sequences