ENA - Divided

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  • 昨年、Samurai Horoにとって初となるアーティストアルバムを提供したのは、日本人プロデューサーのENAだ。しかも、場外ホームラン級のアルバムを、だ。ドラム&ベースを認識不可能な形にまで変換した彼のトラックは、このジャンルの境界を拡張するというレーベルのミッションをしっかりと遂行し、アルバム発表以降の彼も、ドラム&ベースのルールブックを破り捨て、新たなルールを自らの音楽言語で書き記してきた。今やSamurai Horoのフラグシップアーティストとなった感さえあるENA。彼の特徴は、極小サイズのサンプルと独自に作られた執拗なサウンドから緻密なドラムトラックを構築する点だ。『Binaural』が他の星からやってきたダンスミュージックのように思えたのもそのためだ。しかし、『Binaural』がいかに奇妙なレコードであったとしても、『Divided』には敵わないだろう。レーベル初のカセットリリースとなる『Divided』は、Samurai Horoにとって新たな指標となる作品だ。ENAが新しいライブセットをリハーサルしている時に構想したという『Divided』では、散り散りの細かなサウンドを用いて、彼の作品史上最も逸脱したトラックが形成された。 過去2つのENAのアルバムは、既存とは異なるリズムを軸として構築されていたが、『Divided』では異なる一面をのぞかせている。奇妙なアンビエンスが漂う空間、背後で隠れるように潜むメロディ、どうやって作ったのか見当も付かないざわめくサウンドエフェクト、『Divided』の全てはこうした要素の中間で生まれている。最も難解な路線を攻めているトラックでさえ、ENAが描くサウンドスケープには意識が惹きつけられる。例えば、長尺トラック"5th Divided"の場合、序盤で用いられるサウンドが面白く、湯が沸騰しているポットにマイクを当てているかのような吹き荒れる風の音がレコーディングされている。このトラックにこんなにも魅了されてしまうのは、決して音楽的だからではなく、ディテールに対する彼のレベルの高さに由来している。単なるタイトなドラムプログラミングで終止しない深みが、ENAの音楽にはあるのだということを思い出させてくれる。 ENAの典型的な一面が表れているトラックは"1st Divided"だ。陽炎のようにかすむ空間の中に包み込まれるようにして、リズムがペースを刻んでいる。"3rd Divided"は、気圧を弄んでいるかのようだ。特定の周波数帯域が抜き差しされるのを聴いていると、鼓膜がポコポコと動いているように感じ始める。このトラックのビートは底辺部で微かに感じられる程度だが、"7th Divided"では、ドラムが余りにもゆっくりと歩を進めているため、あたかも最初から一切動いていなかったのでは、と勘違いしてしまいそうになる。特に、"7th Divided"はリスナーの忍耐力を要求してくるが、注意深く耳を澄ませば、本当に奇妙なサウンドが動き回って全体の景色を描いていることに気付くはずだ。"4th Divided"は、いつものENAと実験的なENAを理想的に混ぜ合わせたトラックとなっており、ゆっくりと動きながら爆発するドラムサウンドは、迫撃砲に弾丸を詰めているかのようだ。 これまで殺伐として近寄りがたい雰囲気の楽曲を制作してきたENAにとっても、いつもの探求的な姿勢とは異なる方向性から制作した『Divided』は、抽象性の新たな高みに達した作品だ。さらに、カセットというフォーマットで発表されたため、そして、まだ構想状態にあるアイデアから作られているような印象のため、『Divided』は彼の音楽的姿勢を高らかに表しているというよりも、1つのサイドプロジェクトとしての趣が強い。ENAの魅力であるアクロバティックなリズムが使われていないものの、普段とは異なる路線で実に整然と表現された今回の収録曲も有無を言わせない魅力がある。
  • Tracklist
      A1 1st Divided A2 2nd Divided A3 3rd Divided A4 4th Divided B1 5th Divided B2 6th Divided B3 7th Divided B4 8th Divided
RA