Helena Hauff - A Tape

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  • Helena Hauffの印象と言えば、スカッとするくらい既存のダンスミュージックに無関心ということだ。彼女にとって初のリリースとなったのは、Blackest Ever BlackのサブレーベルKrokodil Tapesから出たミックスカセットだが、このミックスでは、ビートレスでどこか恐ろしさのあるインダストリアルなトラックが使われていた。そして、今回、発表されたデビューアルバム『A Tape』で彼女は、既存の枠組に対してさらに堂々と中指を立てている。カセット限定となる本作は、ダラスのレーベルHandmade Birdsからのリリースだ。このレーベルからはこれまでにPrurientやMerzbowらの音楽が送り出されている。 ある意味、本作の収録曲を何かと組み合わせて考えるみると面白い。例えば"for i am dead"は、こもったボーカルからスタートして、気持ちが悪くなるシンセのメロディへと展開し、激しく小刻みに揺れるノイズの轟音へと解体されていくトラックだが、そのタイトルから悪魔のような呻き声まで、このトラックに関する全ての事柄は、Broken FlagやLoad Recordsなど、アメリカの硬派な実験音楽レーベルが培ってきた音楽観にフィットしている。"for i am dead"の前後には、気味の悪いアンビエントトラックが収められているが、これは、アルバム全体で見た時のペースと躍動感を、Hauffがしっかりと考えている証拠だ。 現在、ハードウェアに熱心なプロデューサーたちで溢れかえっているが、HauffもWerk Discsから初めてレコードをリリースして以来、クラシックなドラムマシンを数台シンクさせ、大胆にも直接テープにレコーディングを行いながら活動する1人だ。そうやって制作されたトラックが『A Tape』の大部分を担っている。非常に上手く仕上がったトラックもあり、"c45p"で言えば、無骨でジャッキンなドラムサウンドに遊び心のあるシンセのメロディを重ね合わせ、The Hagueを彷彿とさせるシカゴに影響を受けたダークなダンスミュージックを生み出している。しかしながら、Bサイドの1曲目となる"tape7"は、ドラムマシンがごちゃごちゃと入り乱れ、909のタムがメーターを振り切って単に歪んだだけの塊になってしまっている。"split scission"に至っては、トラックで使われているホラー映画的なオルガンにやり過ぎ感があり、かつてインテル486でプレイしていたようなゲームのサウンドトラックのように聞こえる。その他、アシッドトラックも多く収録されているが、どれも及第点と言ったところだ。ハードウェアを巧みに扱えることを十分に示してはいるのだが、古めかしい90年代の12インチと大して変わり映えがしない。 ノイズやローファイロックのコミュニティでは、テープやCD-Rがアルバムのフォーマットとして市民権を獲得している。ただ、そこには、念入りに制作したり、練習したり、高価なレコーディングにお金を支払う必要が無くなってしまった。ラジカセ1台用意して、演奏を録音し、インターネットでオタク相手に少量のテープを販売できる時に、そんなことわざわざやる必要など無いということだ。Helena Hauffは、彼女のサウンドに必須な場所として、パンクな小バコGolden Pudelに信頼を置いている。この場所は、リスクを冒したり、失敗したりする自由を彼女に与えてくれたそうだ。そんな彼女だからこそ、ファーストアルバムを200個のカセットでリリースすることに落ち着いたのだろう。EBM、アシッド、そして、インダストリアルからの影響を難無く組み合わせたラストトラック"$§"$43"など、本作には素晴らしいトラックも収められている。しかし、『A Tape』に含まれるアイデアのいくつかには、煮え切らなさが残る。おそらくそれは、低調なスタイルでのカセットリリースになっているからだろう。
  • Tracklist
      01. l#+#l 02. c45p 03. 29acid3 04. pps 05. for i am dead 06. yyh 07. tape7 08. split scission 09. hdowed 10. ff297-3 11. btdr1123 12. $§"$43
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