Pearson Sound - Pearson Sound

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  • 2012年、Pearson SoundのEP「Clutch」(英語サイト)にあてたレビューで、筆者は「この音楽を何と呼ぶべきか分からない」と書いた。この作品から数年が経ったが、その答えが分かる気配は一向に無い。ミニマルなリズムトラックシンセで満たした幻想的なトラック、そして最近では、ビートレスのトラックと、彼が新たに作品を発表するごとに、使われる音数はますます少なくなっていった。そうしたトラックを素晴らしいものにしていたのは、David Kennedy(Pearson Sound)のメロディに対する類い稀なる感性だ。明るいオルガンで模様を描いた"Untitled"から、ドラムの連打が反復する"Power Drums"まで、その点は共通している。しかし、現在の彼は、自身の音楽を違うレベルへと精練している段階にあり、今回の『Pearson Sound』では、乾いたパーカッションサウンドを優先するため、メロディ要素が放棄されることになった。その結果、本作は、まとまりがなく、時として、刺激無く感じられ、どうにも頭をかしげてしまう内容になってしまっている。 異端のプロデューサーとしての素晴らしい仕事が垣間見られるトラックもいくつかある。1曲目"Asphalt Sparkle"による程良いウォームアップに続く"Glass Eye"は、Kennedyが何年も作ってきたクラブトラックの中でもベストの出来だ。不気味なストリングスと深海のメロディが、まるで、トラックの端に押しつけられているかのように軋んだり弾けたりしながら姿を現す。最後のトラック"Rubber Tree"は、もっと直線的なトラックだが、同様にパワフルで、ボロボロに歪んでおり、かつてのPearson Soundのように荒く切り刻んだようなトラックだ。この直接身体に訴えかけてくる特性は、聴いていて非常に気持ちがいい。他の収録曲は延々と燻っているかのようなトラックばかりだから、特にそう感じる。 "Gristle"では、シンプルなシンセの音色が何度も鳴らされ、端の方からゆっくりと静止ノイズが浸食してくる。ここにはパーカッションも無ければ、勢い自体も存在せず、特定の方向に向かって進んでいるわけでもない。そして、この問題が悪化しているのが、続く"Crank Call"であり、電池が切れかかっている警報機のような弱々しいシンセが、骨格剥き出しのドラムループと共に用いられている。アルバム全体の収録時間は短いにも関わらず、『Pearson Sound』の中盤は、この2つのトラックや他の収録曲のために、冗長でごちゃごちゃした印象になっている。本作を聴いていると、何かしら面白いサウンドが見つかるかもしれないが(例えば、奇妙なトラック"Swill"での主動クランクのようなドラムだ)、かといって、そこから、特に発展していくわけでもなく、ぼんやりとした状態になってしまうことがほとんどだ。そのため、しっかりとボディのある"Russet"と"Headless"の2曲が続いている場面でさえ、全くエモーションが感じられない。個別に聴いていれば、小粋なインタールードになっていただろう。 『Pearson Sound』は、Kennedyのファーストアルバムであり、彼にとって最も重要なリリースだ。しかし、これまでで最も刺激が感じられないリリースでもある。もしかしたら、彼はダンスミュージックの12インチでありがちなサウンドから、一旦距離を置くという意味で本作を捉えているのかもしれない。それは、「Raindrops」からも感じられたことだ。とは言え、本作に漂うどの方向にも行き過ぎないように躊躇しているような感覚は、クラブともエクスペリメンタルともおぼつかない何ともスッキリしない場所に陥っている。『Pearson Sound』には、素晴らしい瞬間もあり、Kennedyが活動当初から磨きをかけている「変わったトラックを制作するスタイル」という点で考えれば、今回のそれほどエキサイティングではないトラックにも、いい部分を見つけることができる。しかし、Kennedyがプロデューサーとして、人々を魅了する新たな音楽を習慣のように見い出してきたことを考えれば、『Pearson Sound』は個性の全く感じられない平均的な作品でしかない。
  • Tracklist
      01. Asphalt Sparkle 02. Glass Eye 03. Gristle 04. Crank Call 05. Swill 06. Six Congas 07. Headless 08. Russet 09. Rubber Tree
RA