Juju & Jordash - Clean-Cut

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  • 『Clean-Cut』(明確な、ハッキリとした、という意)は、そのタイトルからうかがえるように、これまでに聴いてきたJuju & Jordashの作品よりも、より狙いが明確なアルバムだ。さらに言えば、骨格まで削ぎ落としたダンスフロア・ツールが詰まったアルバムである。彼らの過去作品よりも無駄なく正確に構築されているにも関わらず、冷たさや、計算して作られている印象は一切無い。本作を特別なものにしているのは、ビート上に奇妙でべたついたサウンドが盛られていく様であり、シンセパターンが予想だにしなかった場所へと漂っていく様であり、そして、どこからともなくコードが挿入され、トラック全体の印象を一瞬にして変えてしまう様である。 アルバムのスタートを切るのは、優美に仕上げられたタイトルトラック"Clean-Cut"だ。ストリングス、パッド、そして、パンパイプ・シンセによって、トラックは他の収録曲よりも軽快な印象になっている。このトラックはアルバムを聴き進めている間も脳裏に残り、他曲の聞こえ方にも影響を及ぼしている。もしも、"Clean-Cut"が収録されていなければ、比較的激しめの"Wheeze Please"のようなトラックからは、その核となる部分にある柔らかさを感じ取ることが難しくなっていたかもしれない。アルバム全体のペースが速くなり過ぎないようになっているのは、アンビエント要素の濃いトラックが所々に収められているからだ。例えば、"Maharaja Mark"では、当ても無く漂うたくさんのシンセで絶妙に埋め尽くされた世界が広がっている。"Swamp Things"(沼のように飲み込む、の意)のタイトルから、それがどんなトラックなのかは察しがつくだろう。時折、滴ってくるサウンドの中をかき分けながら、静止状態になるまでゆっくりと進んでいる。 『Clean-Cut』がアルバムとして成功している理由の一部は、Juju & Jordashが、自分たちが制作したサウンドをしっかりとコントロールしながら活用していることにある。細部まで作り込まれた豊かなトラックではあるが、重々しく重ね合っているわけではなく、際限無くセッションをやりながら作われているわけでもない。各トラックの要素は必要最低限にまで削ぎ落とされ、単独であちこちに彷徨う主旋律とビート以外にはほとんど要素が無い状態もしばしばだ。"Eventide"を例に挙げるなら、多くのことが展開しているように見えるのに、そこには何も存在していないようにも感じられる。卓越した技術で仕上げられ、極微な動きや変化から最大限のダイナミックな表現効果を生み出しているたトラックだ。 ある意味、Juju & Jordashは彼らが普段使っている大量の楽器を使わなくても全く問題なく制作できるようだ。それは、本作によっても裏付けられている。レフトフィールドな作風になっている時でさえ、そのサウンドは非常にスムーズだ。また、ある意味では、彼らがこれまでにやってこなかった領域に自分たちを追い込んだとも言える。余分なものを切り離し(彼らの作品にはほとんど余分なものなどないが)、さらに精練されたサウンドを追い求めたのだ。『Clean-Cut』では、アーティストとして楽しんでいるJuju & Jordashの様子が聞こえてくる。本作は2人のベストとなる作品だ。
  • Tracklist
      01. Clean-Cut 02. Schomfield 03. Whippersnapper 04. Swamp Things 05. Deadwood City 06. Maharaja Mark 07. Wheeze Please 08. Anywhere 09. Eventide
RA