Emika - Klavirni

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  • Emikaが予想を裏切らなかったことは一度も無い。彼女はハウスのボーカリストであり、ダブステップのプロデューサーであり、シンセポップ界の詩人であり、そして、イカしたサウンドデザイナーでもある。昨年、Ninja Tuneを離れ、レーベルEmika Recordsを始動して以降、彼女はさらに伸び伸びと自由にサウンドの探求を進めている。そんな彼女から、12月に発表した滑らかなエレクトロ12インチ「Melancholia Euphoria」に続き、『Klavirni』が届けられたのだが、なんと今回は、ソロピアノで構成されたLPとなっている。うーん、そうきたか。 注意深いリスナーであれば、本作のタイトルは2013年のEPと同じだということにお気付きだろう。あのEPは、Emikaのセカンドアルバム『Dva』の先行予約ボーナスとして発表されたもので、"Dílo"と名付けられたピアノ・インストルメンタルトラック3曲が収録されていた。今回のアルバムには、それに続くヴァージョン4から16までが収められているが、このトラックは、ミルトンキーンズにあるEmikaの実家でレコーディングされたもので、彼女が子供のころから愛用していたピアノが用いられている。本作は、チェコの音楽家Leoš Janáčekからインスパイアされていると同時に、家族という居心地の良い空間に戻ってきた彼女自身の感情からも影響を受けており、収録曲からは無垢な印象が感じられる。彼女は決して卓越したプレイヤーであるわけではない。しかし、華麗な指さばきで圧倒することが今回のポイントであるわけでもない。Emikaがピアノ上で繰り広げているのは、冷やかな短調を基調とした剥き出しの感性であり、それは、"Pretend"や"Double Edge"といったトラックを際立たせていたものだろう。彼女が新たなプロジェクトを手掛けても、彼女の生み出す楽曲は引き続き強い魅力を放ち続ける。それは、普段、実験的なピアノソロ作品を全く聞いていなくても同じことだ。 もちろん、Emikaはサウンドをそのまま放ったらかしにすることはなく、『Klavirni』でも微細ながら彼女の手が加えられている。ぎこちない響きに変えられている時もあれば、メロディがシンセサウンドのように煌びやかに仕上げられている時もある。しかし、今回、重要なのは、『Klavirni』はダンスミュージックに携わっているアーティストが手掛けたピアノ作品であるということだ。そしてそれは、ニッチなオーディエンスに向けたニッチな作品となる宿命にあることを意味している。とは言え、本作の瞑想的な感覚はどこか魅力を孕んでいるのは確かだ。2011年の特集記事で、Emikaは、独りでピアノに向き合うことで、何人も触れることの出来ない絶対的自己に巡り合うことが出来る、それはヨガや瞑想で人々が探し求めているものに似ている、と語っていた。平穏、自己、そして、達成という感覚が、『Klavirni』をマストな1枚にしているのだろう。
  • Tracklist
      01. Dilo 4 02. Dilo 5 03. Dilo 6 04. Dilo 7 05. Dilo 8 06. Dilo 9 07. Dilo 10 08. Dilo 11 09. Dilo 12 10. Dilo 13 11. Dilo 14 12. Dilo 15 13. Dilo 16
RA