Lawrence - A Day In The Life

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  • ハンブルクのアーティストPeter Kersten(Lawrence)は繊細な瞬間、つまり、パーソナルでありながらユニバーサルな瞬間を生み出す達人だ。この点こそ時間が経っても彼の音楽が魅力的で在り続ける理由だろう。彼が仲間と共同設立したDialやSmallvilleといったレーベルのサウンドを定義づけるような柔らかくグルーヴィーなディープ・ハウスを絶え間なく発表し続けているかのような印象が彼にはあるが、その方法論は実はひそかに何年もかけてダウンテンポを経由(英語サイト)してクラブ・セットへと拡張させてきたものだ。最新作『A Day In The Life』はこれまでの作品とは少し印象が異なる。完全にビートレス、そして、かなり短めとなっているのだが、引き続き前述した「Lawrenceの瞬間」から作り上げられている。 『A Day In The Life』の大部分がしっかりと体に沁み込むのには何回か繰り返し作品を聞く必要がある。収録されているのは歌というよりも微かな印象を残すトラックといった具合だが、中には比較的、主張の強いものもある。例えば、"Nowhere Is A Place"や"Blue Mountain"では遠方でエコーが響き渡り、そこでは完璧なメロディが可聴域を超えた場所にあるグルーヴに捕まえられたかのように波打っているし、囁き声からラブ・ソングが開花していく"Lucy, Lucy"の展開など、殺伐としておぼろげなトラックにも一種の美しさがある。 今回はダイナミクスが大きな役割を担っている。音楽を支えるリズムという軸を使われていない分、Kerstenのメロディが極度に際立っているのだ。2012年の『Films & WIndows』のレビューで、作品が持つ色彩豊かな特性は「控えめの色と虚ろなネオンの残像」によって抑制されている、とKristan Carylが記していたが、こうした音色は今でもしっかりと用いられており、本作ではさらに鮮烈になっている。 ちょうど40分、取り立てて突出した場面もほとんど無く、『A Day In The Life』は手のひらからこぼれ落ちていくかのような儚い作品だ。この掴みきれない性質こそが何度もリスナーを惹き込み作品を再発見させる中毒性を本作に与えている。単にLawrenceの作品からドラムを取り除いただけなのではなく、忙しなくキャリアを駆けあがってきた中で静かに一服しているような印象がある。そのひと時は決して永遠に続くことはないが、味わっている最中はとても気持ちが良い。サウンドの微かな絶妙性と精度という点で素晴らしい作品を残してきたアーティストにとって、『A Day In The Life』がこれまでと同じ結果を生み出したことは決して驚きではない。これまでと同じ結果、つまり、本作を含めLawrenceの作品は常にじわじわとリスナーの意識に忍び寄ってくるということだ。
  • Tracklist
      01. Horses 02. A Day In The Life 03. Lucy, Lucy 04. Nowhere Is A Place 05. Marlen 06. Fainting 07. Simmer 08. The Visit 09. Dreams Are Dead 10. Blue Mountain 11. Bonheur 12. Lost In Joy
RA