Robert Hood - M-Print: 20 Years Of M-Plant Music

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  • 現在、エレクトロニック・ミュージックに蔓延している回顧的作品に対してアンビバレンスな気持ちを抱くのは自然な反応だろう。特にテクノでは、こうしたノスタルジアや、そして誰もが模範とするようなサウンドを確立してきた大御所たちは、シーンの進化志向とは逆方面へと進んでいる。ロック・ミュージックを見れば分かるが、業界全体が中年男性を対象に豪華なボックス・セットを売りつけるなど、過去の栄光に甘えることは、そのジャンルが何十年も前にピークを迎えていたという思いを助長することになる。これと同じ状況にクラブ・カルチャーが陥らないようにするには、過去にそれほどとらわれないことだ。 例えば、Robert Hoodの作品をまとめたCD3枚組の特大セットを前にすれば、いつもの感じで特に疑問に思うことも無く、どこかで聞いたことがあるような文言で彼がどういうパイオニアなのかをのたまった挙句、5/5の評価を与えることは簡単だ。それはアーティストを尊敬しているかどうかの問題だと言う人もいるだろうが、決してそうあるべきではないと思う。Hoodのステータスや古い歴史を持った素晴らしい逸品が持つ輝きを対象とするのではなく、そのサウンドは今でも新鮮で突き動かすものかどうか、ということを基準にして今回の収録曲は判断されるべきだ。 奇しくも『M-Print: 20 Years Of M-Plant Music』はこの点でかなり良い仕事をしている。ゴスペル、ディスコ、そして激しいテクノ性を消化した最近のFloorplan名義の作品は明らかに天才の成せる業だ。"Minus"、"Untitled 1"、"The Grey Area"など本作にはかなり古い作品も収められているが、そのサウンドはまさに普遍的だ。こうしたトラックは、『Minimal Nation』での比較的オーソドックスなデトロイト・テクノよりも、装飾を排したクリスタルのような美しさと、直観に抗うデジタル的で奇怪なグルーヴが際立っており、後のミニマル・テクノの隆盛を予兆していたと言えるだろう。今聞いても古さを微塵も感じさせない。 しかし本作には、こうした発想豊かな傑作以外にも、マイナーながら重要なトラックが収められている。2001年の"The Greatest Dancer"はHood好きの人ならたまらないだろう。これはFloorplan作品の前身となったクリエイティブなトラックなのだ。ただし後の作品と比べるとディスコ・ループがぎこちなく聞こえる。同様に、"AM Track"の上昇していく壮大なストリングスや、"Dancer (Remix)"の段階的なエフェクト使いには時代を感じてしまう。"We Magnify His Name"はしつこいまでにゴスペルなハウスだが、Hoodの敬虔なキリスト教ぶりが説教くさく感じられ説得力が失われている。 しかし、33という数の過去作品を、捨て曲無しに提供できる人はほぼ皆無と言っていいだろう。もしM-Plantのクラシック作が必要なら『M-Print』を買うべきだ。そうでなければ、その金はHoodが最近発表した『Motor: Nighttime World 3』やFloorplan『Paradise』に使った方が良い。この2つは本作と全く異なるだけでなく同じく強力なアルバムだからだ。"Analog Track (Ghost)"といった最近のトラックのダイナミズムが描き出しているように、Hoodの輝きはいまだに上昇気流にある。彼は今どんな音楽を生み出しているのだろうか?そして、これからどんな音楽を生み出すのだろうか?実に気になるところだ。
  • Tracklist
      CD1: 01. The Grey Area (Moveable Parts Chapter 2, 1997) 02. Untitled 1 (Moveable Parts Chapter 1, 1995) 03. The Rhythm of Vision (Minimal Nation, 1994) 04. Protein Valve 1 (The Protein Valve, 1994) 05. Stereotype (Stereotype, 1998) 06. Realm (as ‘Monobox’ - Realm, 1996) 07. The Pace (Minimal Nation, 1994) 08. Untitled Sketch (Moveable Parts Chapter 1, 1995) 09. Unix (Minimal Nation, 1994) 10. Minus (Internal Empire, 1994) 11. The Greatest Dancer (The Greatest Dancer, 2001) CD2: 01. Dancer (Remix) 02. Power To Prophet (Power to Prophet, 2010) 03. We Magnify His Name (as ‘Floorplan’ – Sanctified, 2010) 04. Superman (Superman/Range, 2009) 05. Alpha (Alpha/Omega, 2010) 06. Eleven (Eleven/Alarm, 2011) 07. Baby, Baby (as ‘Floorplan’ – Sanctified, 2011) 08. The Family (Alpha/The Family, 2011) 09. Range (Superman/Range, 2009) 10. Never Grow Old (as ‘Floorplan’ Paradise, 2013) CD3: 01. Exturnus Oblique (Re-Plant) 02. A.M. Track (The Protein Valve 1, 1994) 03. Arrows (Edit) 04. Untitled 4 (Moveable Parts Chapter 1, 1995) 05. Monkey 06. The Family (Re-Plant) 07. Minus (Edit) 08. Analog Track (Ghost) (exclusive to Perpetual Masters: Protein Valve EP, 2014) 09. Who Taught You Math (Alt. Mix) 10. Protein Valve 1 (Re-Plant) (Protein Valve Edits EP, 2014) 11. Full Armor 12. Minimal Minded
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