Edward - Into A Better Future

  • Share
  • ベルリンのプロデューサーEdwardことGilles Aikenは、WHITEからヒプノティックなテック・ハウスをリリースするところからキャリアをスタートしている。そしてそのキャリアは奇しくも、クラウト・ロックのアーティストNeu!およびClusterのメンバーであるConny Plankの音楽に没頭していくことになる(昨年、AikenはPlankの音楽をリミックスしている)。『Into A Better Future』でAikenは、Plankの手法を統合し、それを機能的なダンス・ミュージックに落とし込むという見事な仕事を成し遂げている。デビューLP『Teupitz』以降の彼が歩んだ驚異的な道のりは、彼がどんなことでも成し遂げるアーティストであることの証明となっている。 Musicbaum(英語サイト)にてAikenは昨年のLPと今回の『Into A Better Future』の違いについて「新アルバムはリスナーにもっと意識してもらうことが必要なんだ。そうすると様々な部分がすごく変に聞こえだすよ。目を閉じて聞いてみれば、その音に付いていくことが出来るかもしれない。だけど、BGMとして聞いていると、難しいかな。少なくとも俺はそう思う」と語っている。Aikenはディープ・ハウスのテンプレートを言葉に出来ないサイケデリックな形へと見事に捻じ曲げ屈折させているのだ。彼がGieglingに加わったことは至極当然だろう。最近、RAで掲載した特集記事Label Of The Monthで、レーベルの設立者の1人Konstantinは、ニューヨークのレコード店Dope Jamsが行っている小規模のパーティーにインスパイアされたことについて「かかっていたのはダンス・ミュージック、でもバスドラムを目当てにしているわけではなかったね。その姿勢がいいなと思ったよ」と語っている。中域のパーカッション、雰囲気、マシン的なグルーヴにフォーカスしているAikenも、このスイート・スポットを押さえていると言えるだろう。 "Yes"は70年代のジャーマン・サウンドを掻い摘まんでいる。King CrimsonのギタリストRobert FrippがBrian Enoとのコラボレーションで用いた手法にフリッパトロニクス(テープ・ループの一種)があるが、このトラックではそのフリッパトロニクス的なギターの残響音を用いてテクノ・サウンドの勢いを和らげているのだ。AikenはLittle White Earbuds(英語サイト)にてEnoの"Thursday Afternoon"をテクノ・トラックに混ぜてプレイして、ダンス・フロアを悲哀なムードにするのが好きだと語っているが、今回、彼はビートレス・トラックの傑作を何曲か投下している。ウィンドチャイムによる"My Life In The Window"や、見事なネーミングのドローン・トラック"Commercial Break"だ。"Hecstatic"では、美しいニューエイジ・スタイルのアンビエントに、焼け付くテクノ・ブレイクビーツを重ねているが、これまでの彼からすればこの方向性は当然の結果だろう。 靄の中を突き刺す光り輝くメロディとヘッド・ミュージックの間をAikenは行き来している。タイトル・トラック"Into A Better Future"はこの2つの領域を横断しており、Canスタイルの気味の悪い感覚が漂う中、ヒプノティックなタムのループでスタートし、天にも昇るパッド・サウンドで締めくくっている。本作で一番盛り上がるのは間違いなく"Skating Beats"だ。序盤の飛び回るハウス・ビートは活性の高いピークタイムにうってつけのリズムだろう。一連のトリッピーなアルペジオは恍惚に掻き乱していくファンク・ロックのサンプルによってひっくり返されており、Gieglingの世界観を保ちながらも、物憂いな至福感がEdwardの作品に与えられている。"At Ease"では、ダビーなハウス・リズムに悲しげなメロディが儚く浮かび上がっている。 Terekkeのかすんだダンス・ミュージックや、Further Recordsのカタログの多くのように、最近ではアンビエント寄りのクラウト・ロックなハウスが1つのジャンルとして成立し始めているが、ダンスという点において、今回、Edwardが届けてくれた音楽には及ばないだろう。彼は自身のモダンなハウス・サウンドにコズミックな音楽の歴史を注入し、ユニークな何かへと辿り着いたのだ。Into A Better Future(よりよい未来へと、の意)というアルバム・タイトルにも関わらず、彼は過去に夢中になっているように見える。いずれにせよ、Edwardにとって未来はバラ色のようだ。
  • Tracklist
      01. Let's Go feat. Mari Inoue 02. Yes 03. My Life In A Window 04. Into A Better Future 05. Skating Beats 06. Hecstatic 07. Commercial Break 08. At Ease 09. Fooling The Magician 10. Miracel Steps
RA