Vladislav Delay - Visa

  • Share
  • それほど前のことではないが、ある推薦ツイートを読んでSasu Ripattiによる2007年作のアルバム『Whistleblower』(英語サイト)を聞いた。Vladislav Delay名義で最近発表している激しくビート主体の作品に馴染みがあったため、この奇妙なアルバムのディープでパーカッシブな質感は喜ばしい驚きだった。『Whisleblower』だけでなく、Ripattiの全作品には「軽さ」が浸透しており、言うまでもなく彼の音楽は難解には成りえない。Raster-Notonからリリースしてきた人の平均と比べても、むしろ親しみやすく攻撃的ではないものだ。彼の実験はまるで清潔な研究施設の外で行われているかのような印象なのだ。 『Visa』は『Whistleblower』の続編のようなサウンドだ。よりノイジーなのは確実で、おそらく少し怒りにも満ちている。しかし、サウンド・コラージュに対する素晴らしい聴覚はここでも健在だ。両アルバムを際立たせているのは、トラック同士をつなげる構造的な要素が一切無く、重点を持っていないかのような濃密なテクスチャーの楽曲を構築するRipattiの能力だろう。前もって仕組まれた道を辿るというよりも、その瞬間瞬間で音楽自身が発信しているような感覚があるのだ。続いていく感覚はあるのだが、直観的で自然的ですらあるものの、決して予測出来ないサウンドなのだ。 これまでで最も冒険的にこのアプローチを取っているのは1曲目の"Visaton"だろう。22分の長さのトラックだが、形や強度が失われることはない。低く轟くドローンが終わりまで引き延ばされ、その奥には矢継ぎ早に短いコードとちらつく静止ノイズが隠れている。どこかへ動こうとする気配はなく、トラックは全方向から同時に近づいて来るクレッシェンドによって弾けるエネルギーの塊へと発達していく。最終的にピークを迎え、時折スネア・ヒットが立ち上がり、その下ではサステインの効いたピアノのコードがリバーブに覆われている。不協和音と驚異の中でトラックが喜々としている場面は非常に美しく、Ripattiがこれほど面白いアーティストとなっている理由の核心部はここにある。 以降、アルバムはこの壮大なオープニング・トラックと同様の方式に従い、よりノイジーで、よりアグレッシブな要素を隠れ潜んでいる美しさに融合している。"Viisari"と"Viimeinen"はリラックスしていて、ある意味では従来型のアンビエント・タッチだが、引き続き神経質な動きと共に振動しているトラックだ。大きく見た時、"Vihollinen"は他のトラックよりも柔らかく可憐だ。 Ripattiの最近の作品、特に彼が本名名義で発表してきた狂ったような作品にしか馴染みが無い人にとっては、『Visa』はちょっとした変化球となるだろう。このアルバムはじっくりと効いてくる作品で、美しい瞬間に怒りと不満が擦りつけられる非常に感情的な雰囲気に強く結びついている。重ねあわされたニュアンスと深みのあるデザインにも関わらず、有機的で音そのものに途方もない自発性があるように感じられる。『Visa』では、Ripattiがとても細かく焦点を絞ったエネルギーを掴み取れることが示されており、結果、彼のベスト作品の1つとなっている。
  • Tracklist
      01. Visaton 02. Viaton 03. Viisari 04. Vihollinen 05. Viimeinen
RA