Neel - Phobos

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  • サイエンス・フィクションの素晴らしいところはルールブックを窓の外に投げ捨てる必要があるということだ。全く新しい世界を創造するにあたり、膨大なテクノロジーの可能性を活用しながら全くの更地から何かを構築していくことが出来る。従って、テクノという音楽はサイエンス・フィクションであると言える。厳密な人間性を超えて宇宙、ロボット、マシンによるダークで不確かな世界へと拡張し我々の潜在的な未来を想う音楽は全てサイエンス・フィクションなのだ。プロデューサー、そしてマスタリング・エンジニアとして、近年最もオリジナルで最も素晴らしいサウンドを持ったテクノ作品に自身の聴覚を寄与しているGiuseppe Tillieci(Neel)は想像上の音には馴染みがある。彼はMorphosisことRabih BeainiやMetasplice、そしてAbdulla Rahimの作品に最後の仕上げを施してきた他、Voices From The LakeではDonato Dozzyと共に力を合わせてきた。しかし『Phobos』において、このイタリアの職人が全意識を払っているのはサウンド・デザインだ。これは彼のソロ作品で初めてのことである。 Voice From The Lakeが水中の世界における有機的な生命の形を喚起させるものだとするならば、『Phobos』は全く異なる環境を創造している。今作で言う生命とは鉄と石であり、月面の風景のような荒廃したアンビエントが広がっている。約1時間、目印として認知出来る建物や風景はほとんど無い。メロディーやビートが一切使われていないのだ。代わりに聞くことが出来るのは"Travelling On Kepler Dorsum"のようなトラックで、剥き出しの岩肌で小さなロボットの腕がたてるカタカタとしたサウンドだ。全く異世界のサウンドであり、馴染みのあるサウンドは全く無く、落ち着きを得ることも出来ない。中心となる場所が無ければ、誘導灯となるものも存在せず、危機感が至るところで漂っている。それはTillieciのイマジネーションにおけるダーク・サイドだ。 緩やかではあるが『Phobos』は衛星に基づいて制作されている。タイトルも年々、火星に近づいている衛星Phobosから取られたものだ。火星とPhobosは1年に1メートル近づいており、結果Phobosは最終的に崩壊すると言われている。この避けられない展開こそ、『Phobos』を絶妙に壮絶な結末へと導くものである。"Lige On Laputa Regio"ではシンセが互いに拮抗し合った後、"The Secret Revealed"において低音が美しく響き、複数の要素が1つのメロディへと紡がれる中、天体は崩壊を止める。残忍性や暴力性というよりも、全てを受け入れる暖かな平穏によってTillieciによる黙示録的瞬間が刻まれているのだ。それはとても自然で来るべき終焉である。 『Phobos』を際立て、これほどミニマルなレコードにも関わらず一貫して面白さが保たれているのは、Tillieciのディテールに対する驚異的な聴覚のためだ。素材に光を当てた後、再び闇の中に包み込みながら、彼が密度と質感と戯れているのを聞いていると、本作は再生する度に以前とは違うユニークなものになる。不明瞭な要素や周囲とそぐわない要素は一切無く、レコードは各場面を通じて深度と強度を増しながら1つの長編作品へと構築されていく。『Voices From The Lake』同様、本作も1度座ったら最後まで通しで聞かれるべきアルバムだ。逆面にするために立ち上がらなければならないレコード盤よりもCDフォーマットの方が良い選択肢になるという珍しい例だ。『Phobos』は徹底して焦点が絞られ、完璧に構築されているレコードであり、この世界の向こう側へと到達し、我々が普段慣れ親しんでいる体験に新たな視点を見出そうとしている。空白の夜空は何かを投影するには最高の無空間だ。物語、色、音 - そこに無があれば何かで埋め尽くしたくなる。そうすることで自分自身を映し出すのだ。サイエンス・フィクションの最高作のように『Phobos』も我々が必要な空を提供している。
  • Tracklist
      01. Post Landing 02. Storm In Stickney 03. Crater Chain Observations 04. The Gravity Of Limtoc 05. Travelling On Kepler Dorsum 06. Life On Laputa Regio 07. The Secret Revealed