Cristian Vogel - Polyphonic Beings

  • Share
  • Chrtian Vogelは先日、自身のブログに"パーティー・シーン"という名前を宛名にした1通の手紙(英語サイト)を投稿している。「俺はもう行くよ。新しい試みを探めていかないといけないんだ」と手紙に綴られている。「真摯な音楽家となる夢を叶えたいんだ。もう君と真っ暗なクラブで時間を過ごすことは出来ないってことだよ。これからは暖かいスタジオで自分の音楽に取り組みながら過ごしたいと思う」この発言はそれほど驚くことではない。デンマークを拠点とするチリ生まれのプロデューサーVogelは、彼が手掛けてきたクラブ向けのトラックと同等数の音楽をコンテンポラリー・ダンス・パフォーマンスのために制作しているし、彼が最後に発表したアルバム『Eselbrucke』はアヴァンギャルドなコラージュ作品だったからだ。そもそも活動当初から、例えば彼が1994年にDave ClarkeのMagnetic Northから発表したEP「Infra」のように最もクラブ仕様の作品でさえ、20世紀の音楽制作を学んだ彼ならではの複雑性が含まれていた。逆に、2007年のLP『The NeverEngine』といった最も実験的な作品においても、真っ暗なクラブからの影響がはっきりとうかがえるリズム感覚があった。そのクラブから彼が今、離れようとしているのだ。 しかし『Polyphonic Beings』で明らかなのは、Vogelはまだ「クラブ」を完全に取り去ってはいないことだ。1曲目の"Exclusion Waves"はこれまでに彼が手掛けたトラックの中で最もグルーヴィーなトラックの1つだ。彫刻的なサウンド・デザインには存分にヒス・サウンドが用いられておりBasic Channelを彷彿とさせるが、陽気とさえ形容出来るリズムの隣で漂っているのが対照的だ。"McCaw's Ghost"や"How Many Grapes Went Into That Wine?"でのトラックが荒れ狂うまでの数分間も、同じくダブ・テクノ路線を歩んでいる。後者のトラックは突如気に触れたかのような乱暴に打ち付けるテクノ・ビートと共に、ヘッドロックをかけ続けようとキリキリと軋み声をあげるノイズを伴いながら終了する。 サウンドのフィジカルな特性にVogelが夢中になっているのは、1972年に行われたStockhausenのレクチャーに由来する。本作のタイトルにPolyphonic Beingsと名付けられているのは、このレクチャーにインスパイアされたからのようで、サウンドというものは生き物を分子レベルで変化させることが出来るとドイツ人音楽家Stockhausenは語っている。この考えは"LA Bansheet 109"にて表れているように思える。深海、もしくは脳をドクドクと巡る血液のように聞こえるトラックとなっているのだ。"Lost In The Chase"が溶解したダブステップであり、テクノの構造を持つ"Forest Gifts"は奇妙に変形されているように、我々の聴覚を変異させるのは音楽なのである。 Vogelが完全にクラブ要素を取り払っているのは繊細なピアノ作品として提示された"Society Of Hands"だ。終了時に聞こえる悲しげなボーカルの叫びは、Vogelによるテクノ作品を好むファンが、彼がクラブから去ることを嘆いている声なのかもしれない。話は戻るが、前述の手紙は次の一節で締めくくられる。「電話をかけてこないで欲しい。俺はもう戻らないから」今後Vogelが作るものが何であれ、本作のように素晴らしいならば、彼がどこへ行こうと我々は喜んで付いていこう。
  • Tracklist
      01. Exclusion Waves 02. McCaw's Ghost 03. How Many Grapes Went Into That Wine 04. Lost In The Chase 05. LA Banshee 06. Forest Gifts 07. Spectral Jack (Vinyl Exclusive) 08. Society Of Hands
RA