Ben Frost - A U R O R A

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  • Ben Frostのニュー・アルバムはこれまでの彼の作品とは明らかに異なっている。『A U R O R A』の大部分は、彼が馴れ親しんだセットアップされたスタジオではなく、ラップトップを使用してコンゴ民主共和国に駐在している間に制作されている。その結果、Frostのキャリアの中でも最もダークでパワフルな作品になっており、自ら「ここまで攻撃的で独裁的になったことに、自分でも困惑したよ。バケモノを生み出したような感じだ」と、The Quietusのインタビューで最近語っている(英語サイト)。本当にこのアルバムはバケモノだ。機械化された強力な『A U R O R A』には、ダンス・ミュージックにおける轟音を捻じ曲げて生まれ変わった邪悪な何かが潜んでいる。 Frostも参加したTim Heckerのアルバム『Virgins』(英語サイト)では、楽器の生演奏が持つ力に彼の真髄を見たが、『A U R O R A』がやっていることはその正反対にある。小刻みに震えるサウンドが特徴的な"Nolan"では、眩いシンセが強烈な輝きを放ちながら駆け巡り、吹き荒れるデジタル・サウンドは強力だが、アルバムのタイトルが示している自然現象(オーロラ)と同様、幻想的だ。陽炎のように揺らぎ漂うシンセの下で轟く圧倒的な脅威を持つリズム・セクションは、以前のFrost作品のようにも聞こえるが、そこには熱く燃え上がる新たな信念が感じられる。コラボレーターであるGreg Fox、Shahzad Isamily、そしてSwansとして有名なThor Harrisの3人は、『A U R O R A』におけるコンピューター的な光沢を生の汗と血によって強化している。それはまるで人工的なノイズの大群に素手で立ち向かっているかのようであり、その様は、素材を削ぎ落としてリズムだけのスケルトン状態にした後、有刺鉄線で巻きつけるかのようにシンセが飲み込んでいく"Nolan"と同じだ。もしかするとFrostの音楽は変化したのかもしれない。しかし、彼の音楽が持つ劇的な性質は一切失われていない。 『A U R O R A』でこれまで以上に影響が明らかになっているのは、映像作家としてのFrostのキャリアだ。『Black Marrow』のように、彼が手がけている最近の映像作品はミニマルで脳裏から離れなくなる儚さを伴ったミニシアター作品だが、『A U R O R A』は非常に抽象的であるものの、よりハリウッド的なスケールを持った作品だ。『Transformers』のようなヒット映画がヘビーなダブステップやEDMのけたたましいサウンド・デザインを取り入れているように、Frostもそれに似た強烈な中域の質感を、焼け付くノイズが吹き付ける流れに組み込み、あたかもリスナーをいたぶろうとしている、そうでなければ、少なくとも怖がらせようとしているかのようだ。 エレクトロニック・ミュージックで"Secant"ほどヘビーなサウンドは無いだろう。サザン・スラッジ・メタルのスタイルで激しく揺れ動き、ピアノの断片が引き剥がされるにつれ、喧々たるサウンドを巻き起こしている。"Diphenyl Oxalate"は化学爆発が起こっている中でグラインドコアのバンドが演奏しているかのようであり、シンコペートするリズムとチャイムを吸い込んでいく"Venter"は、スローモーションでこちらへと飛びかかってくる。最後のトラック"Rare Decay"は、他のトラックでの荒々しい力とは対照的に、じっと時が来るのを待っているかのようであり、もはや優雅ですらある。『A U R O R A』に収録した楽曲を仕上げようと戦ってきたFrostの奮闘を思い起こさせるし、その努力は明らかに本作から感じ取ることが出来る。2009年の『By The Throat』(英語サイト)は無慈悲でありがなら過酷を強いる作品であったが、今回のアルバムは正真正銘、狂った作品だ。そして、その予測不可能なところが、どんなに手の込んだ仕掛けよりも一層、本作をスリリングにしているのだ。
  • Tracklist
      01. Flex 02. Nolan 03. The Teeth Behind Kisses 04. Secant 05. Diphenyl Oxalate 06. Venter 07. No Sorrowing 08. Sola Fide 09. A Single Point Of Blinding Light 10. Rare Decay
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