- Mark Barrottは過去5年間のほとんどを裏方としての仕事に費やしてきた。レトロなバレアリック・ミュージック周辺の御用達として間違いなく最高峰のレーベルであるInternatinal Feelのボスとして、ビーチに最適なロックや、空高く光り輝くディスコ、フリースのように暖かいエレクトロニック・ミュージックによるこの時代で最も素晴らしく一貫したカタログを生み出してきたのだ。Rocha、Maxxi & Zeus、Coyote、Bubble Clubといった夕暮れ時に最適なアーティスト、もしくは、DJ HarveyによるLocossolusプロジェクトでの変態ブーギー、そのどちらにせよ、ビーチでプレイされる音楽として完璧な世界観をBarrottは作り上げ、夕べを過ごす時間を長くし、日に焼けた肌を癒してきたのである。
この2、3年の間に、Barrott自身による音楽プロジェクトはレーベルの最前線へと躍り出ている。昨年の初頭、解体したクラウトロックとふつふつと煮え立つアンビエントによるEP「Mendicant Adventures」をSonic Aesthetic名義で発表し、同年の後半には「Sketches From An Island」シリーズの第1弾を放っている。物思いにふけるギター、夏の終わりを彩るおぼろげなグルーヴ、そして鳥の鳴き声のような静かなシンセの技巧を組み合わせた作品だ。今年の前半には「Sketches From An Island 2」が続いている。
そして今回、Barrottは本名名義でLP『Sketches From An Island』を発表する。アルバムのフォーマットに合うように、これまでの2作を再びアレンジした他、新たにフィナーレとなるトラックが加えられており、このジャンルが発展してきた40年という月日の様々な時点から取り出してきたような灼熱のバレアリックを見事な技で作り上げている。『Sketches From An Asland』は、50分間に渡ってしんとした優雅さを醸し出し、柔らかくセルリアン・ブルーに輝くイビザを彷彿とさせる。Barrottが自身のホームを作り上げた場所であるイビザだ。ポリエステル・ブギーなオープニング・トラック"Baby Come Home"のように、本作には軽く腰を揺らしながら筋肉をほぐすような要素があるが、トラックのほとんどは、枕の上に頭を乗せて聞くような音楽になっている。例えば、転がり落ちるハンド・ドラムのサウンドと、ゆったりとした夢を見ているかのようなギターの調べによる"Go Berri Be Happy"には、この点において、絶妙な加減でその悦びが表現されている。満天の星空を思わせるシンセサイザーと鳥のさえずりが輝きを放つ "Dr. Nimm's Garden Of Intrigue And Delight"でも同様のことが言える。一方で、彼方で鳴り響くドラムの音と、銀色にきらめくギターによる"Essene"は、空へと上昇していくというよりも、その場ではためいているかのような印象だ。
このトラックと対を成しているのが6分間のトラック"Deep Water"だ。これまでのBarrott作品の中で間違いなく最も素晴らしい作品だろう。夜明け時の淡いピンクの空気、かたかたと音を立てるハンド・ドラムやフルートのメロディ、そしてかすんだ情景が控えめながらも至福の時を演出する中を奏でられるニューエイジなピアノの旋律によってスタートし、ピアノがゆっくりとスピードを増していき、シンセが頭上へと浮かび上がっていくにつれ、時間が徐々に解け始めていく。その様子は、春に迎える最初の快晴の日に似ている。
はるか彼方から聞こえてくるスライド・ギター、波の音、そしてきらきらと輝くシンセサイザーによる"Back To The Sea"を経て「Sketches From An Island」がフィナーレへと向かっていくにつれ、ほぼ完全に音が消し去られ、鳥の鳴き声とピアノによる"Sacred Islands"へつながっていく。Barrottが巧みに作り上げた音風景が終わりを迎えるのを目にするのはとても悲しいが、このトラックは、彼のビジョンがタイムレスな安らぎを持っていることを示すトラックとなっている。
Tracklist01. Baby Come Home
02. Dr Nimm's Garden Of Intrigue & Delight
03. Go Berri Be Happy
04. Essene
05. Formentera Headspace Blues (Pts. 1 & 2)
06. Deep Water
07. Island Life
08. Back To The Sea
09. Sacred Islands