- 『Yellow Memories』はFatimaのデビュー・アルバムとなる作品だが、彼女は既にアーティストとして確立されている感がある。Egloお抱えのヴォーカリストであり、このレーベルが発表してきたベスト作品の多くで、その役割を担ってきた存在だ。レーベル特有の毛羽立った前衛的なビートに、彼女は美しくソウルフルなタッチをもたらしている。同時にソング・ライティングとして、もしくはボーカルとして、Scratcha DVAやDâm-Funkといったプロデューサーの作品にゲスト参加してきた彼女は、多くの賞賛を勝ち得ている。こうしたことを考えれば、Fatimaはとっくにアルバムを制作していてもおかしくないのではないかと思ってしまうが、彼女がここまで時間をかけたということは、本作が入念に考えられたプロジェクトであることを意味している。
最初から最後まで『Yellow Memories』を聞いてみて欲しい。格別なムードに浸ることが出来るからだ。内省的なR&Bとソウルが、そのテーマとなっている。その音楽のほとんどが意欲的なものであり、例えば、Flakoがプロデュースした"La Neta"では、トラックの途中で拍子が変化していたり、Theo Parrishが書いた1曲目"Do Better"は、現行の音楽では滅多に目にかかることの出来ないドラマ性と技巧を感じさせる。そしてここで要となっているのが、EgloのボスであるFloating Pointsだ。12のトラックの内5つをプロデュースしており、Fatimaと彼のパートナーシップによって本作におけるベスト・トラックの内2つを作り上げている。それはつまり、クライマックスを演出する"Do Better"と比較的削ぎ落とされた作りの"Biggest Joke Of All"だ。後者は、ブーン・バップのビート、素晴らしいボーカル・パフォーマンス、そしてキーボードによるジャム・セッションというシンプルな内容だが、そのシンプル性があるからこそ、このトラックは機能していると言える。
Scoop De VilleやOh No、そしてKnxwledgeなど、本作に参加したゲスト・プロデューサーは他にもいる。いずれももビッグ・ネームという訳ではないが、レフトフィールドなビートメイキング・シーンにおいてカルト的なフォロワーを持つ存在であり、彼らとのコラボレーションはどれも突出した内容だ。その中でも特にイチオシしたいのが、Computer Jayと、かつてなく素晴らしいSa-raのShafiq Husaynがプロデュースした"Circle"だ。このトラックには何かが詰まったような、もはやサイケデリックとも言える感覚があり、アルバムのほぼ全編を通じて言えることだが、Fatimaの表現力豊かなトーンによってはっきりとしたコントラストとなっている。伝統的なソウルのメロディーを、時折、奇妙な動きを見せる面白い音楽と混ぜ合わせる感性が『Yellow Memories』をここまでの出来にしているのだ。一聴してFatimaの声は聞きどころだと分かるが、何度も聞きなおしてみてほしい。そうすれば、1回聞いただけでは捉えることのできなかったその他の音楽要素を感じることが出来るだろう。
『Yellow Memories』は捨て曲なし、まさに全曲キラー・トラックだ。Fatimaをよく知らない人にとっては、Erykah Baduを、特にアルバム『New Amerykah』を引き合いに出すだろうが、それでは、Fatimaのオリジナリティに対して正しくないのではないだろうか。彼女は本当に唯一無二のアーティストだ。Egloのようなレーベルのサポートがあれば、さらに、そう言うことが出来るだろう。
Tracklist01. Do Better (Produced by Floating Points)
02. Technology (Produced by Oh No)
03. Circle (Produced by Computer Jay)
04. Sun Star Solar
05. Ridin Round (Sky High) (Produced by Scoop Deville)
06. Family (Produced by Flako)
07. La Neta (Produced by Flako)
08. Biggest Joke Of All (Produced by Floating Points)
09. Underwater (Produced by KNX)
10. Rest In Peace
11. Talk (Produced by Floating Points)
12. Gave Me My Name (Produced by Floating Points)