Donato Dozzy & Nuel - The Aquaplano Sessions

  • Share
  • カルチャー供給過剰なこの時代に、豪華な再発盤が横行している。アナログ盤の魅力をフェティッシュなものとして利用して、忘れ去られていた傑作だとか歴史に残る重要作などと言っているのだ。とは言うものの、溢れかえっている過去の作品の中には再度、聞かれるべき価値のあるものが存在するのも確かで、リリースされた当時、何らかの理由で作品に相応しい評価を獲得出来なかったものがある。短命に終わったレーベルAquaplanoから2008年と2009年に限定でリリースされた2枚のEP、Donato DozzyとNuelによる『The Aquaplano Sessions』がまさにその例だ。Discogsではこのタイトルに泣きたくなるくらいの高値が付いている。 『The Aquaplano Sessions』に収録されたヒプノティックな8つのテクノ・トラックのほとんどの部分では、従来のハーモニックでメロディアスな展開が用いられていない。サウンドは薄っすらと光を発しているものの、ミキシングによって音像がぼやかされており、もはや大気と一体になったかのようにすら感じるのだ。代わりにDozzyとNuelは徐々に変化していくリズムの反復とひねりの効いたダブワイズなエフェクトを渾然一体に使用している。スネアが立ち上がってくる展開やシェイカーのリズム・パターンが変化していく場面は非常にドラマチックな瞬間だ。本作はドラマ性に事欠かない。抑制の効いたビートの周りを響き渡るサウンドが特徴的な"Aqua 2"を例に挙げるならば、グルーヴ感が増しては引いていく展開を繰り返し、徐々にサウンドが近づいて来るのだが、終盤、一瞬だけ音階が変化するとき、全身が奮い立つのではないだろうか。 ここに収録されたほぼ全てのトラックには完璧なピッチ変化がもたらす強烈な感覚がある。この感覚によって中盤のトラック"Aqua 5"には素敵な休息空間が広がっている。ビートレスにすることで、DozzyとNuelは薄暗い世界を漂うサウンド・デザインを作り上げている。静かな水面に輝く日差しのようにサウンドがきらめき、その上をコードが波打っている様子を水中から見ているような感覚だ。6分弱の間に生み出される深みによって、次のトラックで入ってくる最初のキックに計り知れないインパクトが与えられていることとなる。アルバムの最後には、広大なダウンテンポ・トラックが収められ、リスナーは柔らかく現実の世界に戻ってくることが出来るようになっている。 収録曲は家で聞くのに完璧だが、綿密に作られ臨場感溢れるトラックはフロアでもしっかりと機能するものだ。本作は実際体験、共同体験のために作られた音楽なのだ。DozzyとNuelはフィジカルにリスナーを彼らの音楽の中へと取り込み、身体の隅々にまで徐々にリズムや音階を馴染ませるのが得意だ。そして天才とも言えるのが、その馴染んだ感覚を見事に覆す展開だ。この展開は数秒しかないのだが、その数秒の流動的な瞬間に、おびただしいほどのアドレナリンが放出されることだろう。水面に漂っているような、もしくはコントロールを失ったかのような感覚だ。
  • Tracklist
      01. aqua1 02. aqua2 03. aqua3 04. aqua4 05. aqua5 06. aqua6 07. aqua7 08. aqua8