Untold - Black Light Spiral

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  • 『Black Light Spiral』は救急車のサイレンからスタートし、最初の5分間うなり続けている。イギリスのダンス・ミュージック・シーンが好むこうした都市の一面を感じさせるセッティングは、それ後に続くハードなリズムへのイントロとして完璧なものだ。その5分の間、UntoldことJack Dunningが最近熱中しているテクノの要素が分厚いキック・ドラムとなって姿を現すのを待っていたのだが、ビートは一向に入ってくる気配はなく、代わりにサイレン音が収まることなく叫びを上げ続け、坦々とパンニングしていき不安感が高まっていく。そして1曲目は死んだように動かなくなり、次のトラックへの道がようやく開かれる。 Untoldのデビュー・アルバムとなる本作を一回聞いただけでは、いや10回聞いたとしても、よく分からない不穏さと親しみにくさが残るのではないだろうか。ロンドン出身のこの男の作品はこれまでも常に取っ付きにくいものだったが『Black Light Spiral』ではもはや恐怖を感じる域にまで達している。ハートフォードに引っ越しをする前に超特急で作られた本作は真っ暗な音楽作品となっており全ての光を吸い込み、最もディープでダークなテクノの衝動にその身を委ねているようだ。フィードバックが覆いつくす"Drop It On The One"やさわめくリズムの"Doubles"に、テクノの要素が一瞬、見え隠れしている。アルバム後半部では、水の中を突き進んでいるかのようにキック・ドラムが執拗に鳴っており、ヒス・ノイズと鈍い音がコードの代わりを担っている。 『Black Light Spiral』は無慈悲なノイズと不可解なシンセ音から出来上がっていて、聞き心地のいいものでは決してない。言うならばジキルとハイドのMatthew Herbert版だ。"Wet Wool"や"Hobthrush"では高熱に照り付けられたモノトーンでラフなサウンドが展開されている他、"Strange Dreams"はまるでDunningがPercとメリケンサックを使ってボクシングをしているかのようだ。残すはあと3曲になったが、ここで最も印象的なトラック"Sing A Love Song"に触れたいと思う。心地よく響くダブ・サウンドを息が出来ないように締め付けたかのようなトラックからは、いびつなループとざらついたカッティングによって作られたフランケンシュタインの怪物が踊っている音が聞こえてくる。ヘッド・バンギングしたい衝動にかられてしまうのだが、強烈過ぎて耐えられなくなり次の曲に飛ばしたくなってくる。 1ヶ月の間、聞き続けたとしても『Black Light Spiral』には驚きを感じることがある。40分に及ぶ容赦ない怒りは本作の最高な部分でもあり、最低の部分でもある。非常に冷酷な印象があり、二度と聞きたくなくなるほどだ。現在、Dunningはモジュラー・シンセに注目しているため、『Black Light Spiral』では新たな方向性を提示するのではなく袋小路に迷い込んだ世界を作り上げており、そのことが本作を奇妙な魅力に溢れる作品へと仕上げているのだ。1つだけ確かなことがある。「テクノの要素をからめた数多のダブステップ・プロデューサーの1人」だと自身について語ったことがある彼は、自分自身以外には誰も喜ばせようすることは決してないということだ。
  • Tracklist
      01. 5 Wheels 02. Drop It On The One 03. Sing A Love Song 04. Doubles 05. Wet Wool 06. Strange Dreams 07. Hobthrush 08. Ion
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