Machinedrum - Vizion Centre

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  • Travis Stewart(Machinedrum)の最新LP『Vapor City』は単なるアルバムというよりもオーディオ・ヴィジュアル体験として発表されたものだった。LPに収録されたトラックはそれぞれ架空の都市の様々なエリアを描き出すものとして制作されているが、ライブ・パフォーマンスや大規模なアートワーク、そして数多くの追加曲においてもその音楽的世界観を感じることが出来るという話だ。今のところこの内のほとんど明らかにされていないので、この試みが現代における野心的な総合芸術なのか、それとも現代の音楽マーケティングに対してじわじわと情報を小出しにして攻めていく手法をとっているだけなのか、判断するのは難しい。そのどちらであったとしても、Stewartが「Vizion Centre」のように、気紛れ的に興味深い作品をリリースするのであれば、このやり方は歓迎すべきだと思う。 『Vapor City』では多くの様式が取り入れられているのだが、今回の5つの無料トラックEPではよりテーマがハッキリしている。アルバムにも収録された"Vizion"からスタートし、霧のようなアンビエントへと広がっていく。海のようなダブ・テクノやBurialのようなビートレスの安息空間、そして『Rifts』を発表した頃のOneohtrix Point Neverのような壮大なランドスケープ、その中間にStewartは方向性を見い出しているようだ。その結果は衝撃的というよりも優雅であるというほうが近い。ベストなのは"Gold"での光と温もりに満ちた場面や、輝かしく陽が照らし出している"Talk 2 Me"だ。一方で荒涼とした"Vaulted"は若干、地味な印象になっている。アンビエントが本来在るべき姿に対し忠実な姿勢をとっており、大胆なやり方で注意を惹きつけようとはしておらず、例えば"Tailor Nacht"はクレッシェンドを上手く用いているが、決してやり過ぎてはいない。全体を通じてサンプリングされた人々の会話が遠くで聞こえている。これはおそらくこの壮大に広がる空間の中で生活をしている人々を表現しようとしているのではないだろうか。とはいえ、この街の存在は非常にアブストラクトで、具体的なものとして存在しているわけではない。『Vapor City』同様、Stewartはコンセプトを優先させるよりも、音楽そのものが世界を作っていくように仕向けている。
  • Tracklist
      01. Vizion 02. Vaulted 03. Gold 04. Tailor Nacht 05. Talk 2 Me
RA