Hakim Murphy - Chiffre

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  • シカゴのHakim Murphyはここのところ非常に多くの活動を展開している。今年だけでも彼は6枚のEPをリリースし、その全てが傑作だとは言えないけれど、各々のリリースを聞けば、ハウスミュージックに対する彼のヴィジョンが繰り返し実践されていることに気付くだろう。そのヴィジョンを知る手がかりはMurphyが拠点とするシカゴにある。隙間の多いラフなリズムアレンジはシカゴハウス黎明期のジャッキンなトラックを彷彿とさせるが、同時に不均等なループパターンや微細な動きをみせるシンセ音、さらには的確に絡み合うリズムとメロディによって面白い効果を生み出している。 シアトルのレーベルMindshiftから発表される「Chiffe」に収録されたトラックはMurphyが手がけた最近の作品の中で最も素晴らしいものだ。エッジの際立ったラフなベースラインによる"Tegel E"は驚くほどアグレッシブだが、複雑な構成によってそのインパクトを巧みに分散している。Murphyのビートはモールス信号のような性質を持っており、まるでティッカーテープ(電信に使用され、モールス信号を刻印されたテープ)に刻印されたデータがローランドのハードウェア機材に次々と送信されているかのようだ。この性質が次々と積み重なっていくことで息を飲むほどに複雑な動きを生み出している。ガタガタとなるリズムや見事にアレンジされたベースライン、そして空間に漂うコードなど、"Gangsta Glide"でもほぼ同じ素材が用いられているものの、前述のトラックとは一転、かなり落ち着いた雰囲気になっている。Murphyと時折、共同で制作を行うアーティストの1人であるDJ Spiderは"Nabodani"をいびつで特徴的なバージョンに仕上げており、血流が止まって痒みを覚えるようなこのリミックスは、心肺が停止するのではないかと不安になってくる。実はこの効果は傑作『Planet Of The Apes』からのサンプルを使用して生み出したものだ。唯一、残念なのはMindshiftからリリースを続けるMurdocの"Vatitio"リミックスだろう。これだけ冒険的なアプローチをやっているトラックが収録されたEPの中で、1人だけ大人しく面白みがない。
  • Tracklist
      A1 Tegal E A2 Nabodani (DJ Spider Remix) B1 Vatitio (Murdoc Remix) B2 Gangsta Glide
RA