Logos - Cold Mission

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  • クラシックなグライムのサウンド、特に銃を構え無愛想に打ち鳴らされているかのようなブラスとストリングスや鞭打つようなビートは2013年のトレンドだ。KeysoundのプロデューサーであるJames Parkerはデビューアルバム『Cold Mission』の制作にあたってトラックを構築する際に、こうした要素を用いている。しかし彼がそこでやっているのはいわゆる楽曲の制作というよりも新たなアイデアの基礎を描くことだ。グライムを解体していくアプローチを持つアーティストとしてParkerはJam CityやRabitと共に評価を獲得しているが、彼のスタイルが持つ凶暴性を表出させる作品群には独特な蒸気のようなものがある。各トラックからは活き活きとした要素が取り除かれ、時折、刻まれるハイハットやタイミングのずらされた乱れたベースラインが鳴らされてはいるものの、どこかに掴まっていなければならない程に底無しのディープな様相を醸し出している。緻密なプロダクションスキルによって、前述したような馴染みのある要素から全く新しいものを彼は生み出しているのだ。 非常にフィジカルに訴えてくる作品にも拘らず、静寂さが『Cold Mission』を多い尽くしている点は驚きだ。ある意味、その静寂がアルバムで最もパワフルな要素と言える。最初の20分ほどは、冷やかな空気をもたらす微細に鳴らされるサウンドが暗闇の無へと帰す。このオープニングの間、グラスが割れたようなサウンドや他の音断片によって不気味なサウンドスケープを作り出しており、まるでアルバムが加速していくのを拒んでいるかのようだ。5曲目の"Seawolf"にようやく差し掛かった時でさえ、ぎこちない奇妙なサウンドが鳴らされるだけである。 このアプローチは最小のサウンドでも最大の威力を持って鳴らされていることを意味してする。体を芯から揺らしてくる"Menace"。シンセによるブラスサウンドの精巧な構造やまるで見えない五線譜にピタリとタイミングを合わせて刻まれるビートが特徴的なこのトラックを例に挙げてみよう。このようにどんなものか正体の掴めないサウンドが強烈な印象を持っているのは本当に奇妙で仕方がない。もちろんLogosは同じ素材をアルバムを通じて使用している。特にドラムサンプルにおいてそのことが顕著だ。しかし、同じ素材を使うことも実験の一部だと言える。最小のサウンドから創造力を活かしてどれだけ多くの違いを生み出すことが出来るのか、『Cold Mission』ではその点を明らかにしているのだ。 Parkerが誰かと一緒に制作を行うとき、Parkerによる漆黒の世界の中にそのアーティストたちの要素を如実に感じることが出来る。Rabitを迎えた"Swarming"は隙間だらけで今にも崩壊してしまいそうなほどだ。"Alien Shapes"での冷たいストリングスが時折、吹きつける荒涼とした世界感にはDusk & Blackdownの要素がにじみ出ている。本作において最も鮮烈だったのはMumdanceとの"Wut It Do"だ。以前にもリリースされたトラックの新たなバージョンとなる。アンビエンスが世界を洗い流していく中から鋼鉄のジャングルブレイクと悪魔のようなボーカルのカットアップが立ち上がって来るのは、まるで竜巻によって巻き上げられる瓦礫のようだ。そして怪物のようなリースベースがこれまでの静寂を一撃でなぎ払っていく。 "Wut It Do"の前後には本作で最も可愛らしいトラックが収録されている。Four Tet風の"E3 Night Flight"と眩暈を起こしそうなラスト曲"Atlanta 96"だ。これによりアルバムにさらに劇的な展開がもたらされている。『Cold Mission』を聞いていて可笑しいこと。それはここ最近の作品の中で最も力強いダンスミュージックでありながら、その理由が静寂だということだ。
  • Tracklist
      01. Ex 101 02. Statis Jam 03. Surface Area (Main Mix) 04. Swarming feat. Rabit 05. Seawolf 06. Alien Shapes feat. Dusk & Blackdown 07. Menace 08. Cold Mission 09. Night Flight 10. Wut It Do feat. Mumdance (Album Mix) 11. Atlanta 96 (Limitless Mix)
RA