Nils Frahm - Spaces

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  • ベルリンを拠点に活動するNils Frahmの活動は多岐に渡る。シンセサイザーで描く満天の夜空で星を眺めているような叙事詩"For"や、親しみ溢れるソロピアノ作『Screws』、そしてその両要素を取り入れた多くの作品を多くリリースしてきており、そのどれもが素晴らしい。彼のライブショウではその真の姿を披露している。彼は少なくとも、通常3台のピアノを用い、加えて多くのシンセサイザーや他の機材もセッティングするのだが、レコーディング作品では不可能な方法がこうしたパフォーマンスでは可能となり、それによって彼の才能を遺憾なく発揮することが出来るのだ。本作『Spaces』ではこの不可能だった部分を解決しようとしている。本作は過去2年に行ったライブレコーディングをコンパイルしたもので、様々なコンサートでの様々なムードの中での彼の演奏を収めたものとなっている。80分超に渡って、壮大なシンセによるクライマックスから悲しげでささやくようなバラードまでNils Frahmの全てを聞くことが出来、言うならば『Spaces』はFrahmにとっても待望となる、彼の音楽性を網羅した作品だ。 Erased Tapesからリリースしている他の作品同様に、Frahmの魅力はダイレクトに迫ってくるところだ。彼の作品は琴線に触れるものであり、そのモダンクラシカルな演奏はとても親しみやすく、専門的な音楽知識を必要としない。そしてエレクトロニクスを取り入れることで繊細な作品をさらに説得力のあるものにしている。簡潔ながらもダビーなイントロに続き『Spaces』の幕を開けるのは"Says"だ。柔らかなピアノの響きと波打つシンセが上手く調和している。8分間、徹底して反復していく様子はエレクトロニックならではだと言えるが、激しいクライマックスを迎えた後に訪れる荒れ狂うサウンドには人間的な要素を感じることが出来る。一方、Frahmの最も知られた17分に渡る曲"For"では、コードがアンビエンスへと溶け込んでいる。エレクトロニックピアノの不安げな調べが不意に鳴り響くのを聞けばブルースの影響が色濃かった70年代初期のPink Floydを思い起こすことだろう。 『Spaces』に収録された他の楽曲では、ピアノが部分的に使用されてはいるものの、前述のピアノパートと比べても見劣りしていない。全てがスロウモーションで動いているように感じる雄大な"Said And Done"ではFrahmの持つスキルが余すことなく表されている。"Unter/Tistana"での音の強弱、質感、躍動感が見事で、Frahm作品の中でも特に優しく奏でられている。アンビエントノイズが反復しながら展開していく"Improvisation For Coughs And A Cell Phone"ではミュージックコンクレートの一面が窺える。 こうした楽曲は1回の視聴で全てを感じ取るのは難しいかもしれない。しかしイマジネーションを使ってみて欲しい。そうすればこのアルバムは途切れることのない1つのパフォーマンスとして聞こえてくるはずだ。臆することなくセンチメンタルに仕上がった『Spaces』からは同時に真摯な姿勢を感じることが出来、その姿勢はしばしばFrahmにとっても良い結果をもたらしている。それ以外にもレコーディング面での重要性も忘れてはならない。見事な空間(Spaces)へと変化していく残響によって彼の音楽は華麗でさえある。それはまさにライブパフォーマンスのようであり、このことこそ、本作の全てだと言っても良いだろう。彼のコンサートを見に行くことが出来ないならば『Spaces』を聞いてみて欲しい。彼の最良の演奏を間近で聞いているように感じることが出来るだろう。
  • Tracklist
      01. An Aborted Beginning 02. Says 03. Said And Done 04. Went Missing 05. Familiar 06. Improvisation For Coughs And A Cell Phone 07. Hammers 08. For - Peter - Toilet Brushes - More 09. Over There, It's Raining 10. Unter - Tristana - Amber 11. Ross' Harmonium 12. Me (Digital Bonus Track)
RA