Recondite - Hinterland

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  • Reconditeの音楽から察するに、彼は憂鬱な性格なんだろうと思う。自身のレーベルPlangentから繊細なディープハウスをリリースし始め、アルバム『On Acid』で聞くことの出来た悲しい響きを持った303サウンドへとスタイルを移行。そして凍て付くようなテクノを制作するようになったが、彼の陰鬱な方向性はその変化の過程においても一貫しており、そうした様々なスタイルを1つにつなぎとめている。昨年、Scubaの"The Hope"をリミックスした際には、オリジナルでの躍動感さえも取り除き、一風変わったバージョンを2つ提供している。多くのレーベルからリリースを重ねた後、ReconditeことLorenz Bunnerは現在のところGhostly Internationalに居場所が落ち着き『Hinterland』をリリースすることになった。彼が幼少期を過ごしたローワーババリアからインスパイアされたこのアルバムでは、タイトル「Hinterland / 奥地」という言葉が連想させるように、荒涼とした風景が広がっている。これは深夜に聞くべき音楽ではあるものの、クラブ友達と一緒に、というよりも、夕方にかけて暖かいココアを飲みながら聞けるようにも作られている。 『Hinterland』の極寒の世界は知らぬ間につま先が凍傷になってしまいそうに感じるかもしれない。真冬真っ只中のドイツの森を通り抜けてくるSmallvilleからの12インチ作品を想像してみて欲しい。そのサウンドはディープで独特の質感があり、そして孤独だ。雪の中を歩いている際の不思議で静寂な時間を表現しているドラムサウンドには衰弱しているかのような感覚がある。本作で最もメロディックな"Leafs"や"Riant"での深いリバーブ音でさえも、このように目前に広がる白銀の世界の中では、普段とは異なり暖かく思えるほどだ。今回の作品ではちょっとした要素に目を向けることが重要になってくる。例えば"Stems"でのパーカッションが良い例で、湿った大地を踏みしめているかのようにバチャバチャと音を立てているかのようだ。 『On Acid』で表現されていたペーソスからの影響を本作でも感じてしまう点については少し残念ではある。実際のところ、アシッドサウンドの新たな解釈を見事に提示してみせた『On Acid』以降の作品は、比較的、同様のことを繰り返そうとしているトラックばかりで、圧倒されるようなものではなかった。とは言うものの『Hinterland』には感情に訴えてくる響きがある。悲しげなメロディと繊細なドラムサウンドが忠実に繰り返される中、その奥底にこの感覚が隠れている。その正体を掴むには時間をかけて何度も聞く必要があるだろう。本作はそういったアルバムだ。彼の初期作品のファンなら間違いなく気に入るだろうし、もちろんSmallvilleやDialのようなレーベルからのディープハウスが好きな人にとってもだ。進化を見せるというより、一時的にこれまでと同じ場所に留まっているように感じるものの『Hinterland』ではベルリンで最も興味深いアーティストの1人であるReconditeのまた別の一面を垣間見ることが出来る。
  • Tracklist
      01. Rise 02. Leafs 03. Still 04. Riant 05. Stems 06. Floe 07. Abscondence 08. Clouded 09. Fey 10. The Fade
RA