- 脚光を浴びることになったこの3年、フットワーク外交官DJ Rashadは自らの力でシカゴのニッチな扱いを受けていたこのサウンドを世界的に影響力を持つ存在へと発展させた。『Double Cup』の1曲目に収録された"Feelin"は彼の同胞TeklifeのメンバーであるSpinnとTasoによってプロデュースされたもので、前作アルバムの1曲目を控えめにアレンジしたものになっている。叩きつけるベースラインはソウルフルで滑らかな曲線へと形を変え、ボーカルサンプルは入念に処理され、『Bangs & Works』で聞くことの出来た荒々しさが無くなっている。『Double Cup』はシカゴというよりもHyperdubを通じてロンドンから生まれたものだ。これはRashadの音楽を様々なジャンルと一緒に煮込んだもので、これまでのものを作り変えた、というよりも、変容を遂げたものだと言っていい。
このアルバムにはRashadのみの手によるトラックは2曲しか収録されていないが、ゲストアーティストを詰め込みすぎることで逆効果になったりはしていない。これは何よりRashadがゲストアーティストとして参加している人のことを良く知っているからに他ならない。そして参加アーティストも単にRashadの曲を使いまわすのではなく、上手く補い合っている。SpinnとTasoが参加した1曲目が素晴らしい。伝統的なスタイルを踏襲しながらも今まで以上に優雅にそして精巧に仕上がっている。小刻みなハイハットを用いた"Double Cup"と"Reggie"では、過去に見受けることの出来なかったジャンルを横断する動きを感じることが出来る。Addison Grooveと共に仕上げた"Acid Bit"では、ビシャビシャと音を立てるサウンドの中を躍動感と共に展開していく。アルバムのラストに収められたDJ Earl参加の"I'm Too Hi"ではジャングルのブレイクが用いられており、驚きに感じるかもしれないが、少なくとも場違いな感じはない。
Rashadのソロ2曲では、Kode 9からMark Pritchardまで多くの人を魅了してきた独特のアイデアがあちこちに施され、今年リリースされたRashadのEP2枚のように、全く異なる次元でのシンセサイジングと、本人は意図していないかもしれないが実験精神に溢れている。以前にもリリースされた"I Don't Give A Fuck"は息を飲むような無重力体験へと誘いフットワークには欠かせないベースラインを高く宙へと引き上げ、心臓が飛び出しそうなほどの効果を生み出している。一方で、"Reggie"ではRobert Owensの角ばったサンプルをつんのめったリズムが作る隙間へと配置し、あたかもランダムに鳴っているかのようなビートプログラミングによって、何とも言えない混沌とした雰囲気が作り上げられている。
よりフットワークらしさを感じることの出来る瞬間も存在する。本作では控えめな曲の1つではあるが、"Drank, Kush, Barz"はこの音楽をシンプルにすることにより生まれる好例だ。こうしたトラックの向こうには長年の実践と実験が感じられ、Teklifeクルーはこれまで活動の初期から取り組んできたサウンドの純度を高めてきていることが分かる。昨年の『Welcome To The Chi』よりも単純明快な作品となった『Double Cup』。完全に自由な創造力とそれを1つにまとめあげる技術を持ち合わせた唯一無二のアーティストによるポートレート作品だ。
Tracklist 01. Rashad feat. Spinn & Taso - Feelin
02. Spinn & Rashad - Show U How
03. Rashad feat. Spinn & Taso - Pass That Shit
04. Rashad feat. Spinn & Taso - She A Go
05. Rashad feat. Spinn & Taso - Only One
06. Rashad & DJ Phil - Everyday Of My Life
07. Rashad - I Don't Give A Fuck
08. Rashad feat. Spinn - Double Cup
09. Rashad feat. Spinn - Drank, Kush, Barz
10. Rashad - Reggie
11. Rashad & Addison Groove - Acid Bit
12. Rashad & Manny - Leavin
13. Rashad feat. Spinn - Let U No
14. Rashad feat. Earl - I'm Too Hi