Machinedrum - Vapor City

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  • 2011年、大きく成功した作品の1つである『Room(s)』。この作品によってMachinedrumことTravis StewartはR&Bのエッセンスを加えたエレクトロニカによって、それまでの過去4、5年の間に台頭していた最良プロデューサーの1人として認知されることになった。本誌上では滅多に出ることのない5/5の評価を獲得し、その年のアルバム投票では2位に輝いている。それまでの間にもStewartは目の眩むようなIDMやインストもののヒップホップを約10年に渡って制作し続けていたが、彼が大きな反響を巻き起こしたはボーカルと結びついた肉感的なジャングルおよびフットワークを『Room(s)』で提示してからだった。 『Room(s)』以来のアルバムとなる(Ninja Tuneからは初)本作の制作にあたって、Stewartはコンセプチュアルなアルバムを書き上げることを決心している。『Vapor City』のジャケットにはモノトーンでインダストリアルな街並が方々へ広がっている風景が描かれているが、Vapor Cityとは架空の都市であり、収録されたトラックはそれぞれ、この都市に存在する10の地区をテーマにしたものとなっている。しかし、こうしたコンセプトに目を向けても、気後れしないで欲しい。Machinedrumによる催眠術のような音楽特性はこの街においても取っ付きやすい魅力となっている。狂ったようなパーカッションやフロアを捻じ曲げるようなベースラインの"Gunshotta"から、ピアノを効果的に使用したカタルシス効果のあるフットワークトラック"Infinite Us"、もしくは認識が難しいほどスピードに乗ったボーカル曲"Don't 1 2 Lose U"まで、『Room(s)』のファンなら気に入る部分が数多くあることだろう。 しかし何よりもMachinedrumの成長を物語っているのはStewardのサウンドが様式美に絶妙に当てはめられている瞬間だ(この点は以前の作品ではハッキリとはしていなかった)。インタビューにて彼はBoards Of Canadaからの影響を口にしているが、Boards Of Canadaが作る不穏な空気を含んだ田園都市に捧ぐ詩からの影響を"Center Your Love"や"Baby Its U"の両曲ではダイレクトに感じることが出来る。アルバム後半ではより多様性が増していき、そこへ突入する手前に収録された"Vizion"では2分30秒におよびガスを噴出しているかのようなドローンサウンドが一度、意識を和らげてくれる。そして後半、"SeaSea"はFlying Lotusの良作かのような、ジャズの影響が色濃く自由に漂うヒップホップだ。一番の変化球となっているのは、おそらくスローモーションなファズゲイズソング"U Still Lie"だろう。特徴的に打ち出されたStewartの雲のように漂うボーカルは、このトラックが無ければもしかしたらWashed OutのLP以外では聞くこと出来なかったかもしれない。Machinedrumによる音の旅は新たな進路を切り開き続ける。そのため、こうした回り道とも取れる多様性もStewartの視野の広さを示していると言えるだろう。
  • Tracklist
      01. Gunshotta 02. Infinite Us 03. Dont 1 2 Lose U 04. Center Your Love 05. Vizion 06. Rise N Fall 07. SeeSea 08. U Still Lie 09. Eyesdontlie 10. Baby Its U
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