Mika Vainio - Kilo

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  • Pan Sonicは2010年以降、冷凍保存状態にあった。これまでIlpo Väisänenの作品はほとんど無かったが(いつものことだが)、しかし、このユニットの1/2であるMika Vainioは間違いなく忙しい日々を過ごしてきた。ソロとして、そしてコラボレーションとして、このフィンランドの実験アーティストは年に2枚以上のアルバムをリリースするペースで音楽を発表し続けている。Blast First Petiteからリリースとなる『Kilo』は彼の最新ソロ作だ。2011年作『Life (...It Eats You Up)』に対して「ビートの側面から補完するもの」として謳われているが、それそのものが獣のような作品となっている。 分厚く、ざらついたノイズは本作でも深く掘り込まれているが、しかし『Life (...It Eats You Up)』でみせたギター成分を多く含んだアタック感はほとんど姿を消している。さらに『Kilo』では、前作、ひいてはVainioの最近の作品と比べてリズム構造が(許される限りの捻りを効かせて)強調されている。そして、Vainioと言えばダークでシネマティックに流れる空気感だ。1曲目の"Cargo"での地殻変動から冥府へと引きずり込む"Weight"まで、あの空気が前面に打ち出されている。 最初のハイライトはどっしりと展開する"Load"だろう。ルードかつ鈍く響くドラムパートと推進力を生み出す電気の流れから聞こえるサウンドを用い、活き活きとしたメインリフ(もしリフと言えるならばだが)が絶えることなく変調され、時にその背後で唸り、時に前面へと飛び出す。病的で催眠性のある"Docks"では16分で刻まれるビートにより動力が加えられる短いシーケンスが使用され、続くノンビート"Sub-atlantic"がその道を引き継ぐ。低域で轟く音、まるで水が喘ぎノイズをたてているかのような長音により、"Sub-atlantic"は本作で最も想像力を喚起する海原をテーマにしたトラックとなっている。終盤に収録された"Freight"はインダストリアルグルーヴの1つの到達点だ。そして"Weight"がゆっくりとアルバムの幕を閉じる。 「普段、数枚のアルバムを同時進行で制作している。違ったタイプのアルバムをね。」とVainioは最近のインタビューで制作アプローチについて語っている。『Kilo』で再び垣間見ることが出来たように、こうしたサウンドの追求結果は信頼すべき予測不可能性に満ちている。そしてこの事実こそ、実験電子音楽の第一人者として彼が成してきた偉業の証なのだ。
  • Tracklist
      01. Cargo 02. Cranes 03. Load 04. Docks 05. Sub-Atlantic 06. Rust 07. Wreck 08. Scale 09. Freight 10. Weight
RA