Jessy Lanza - Pull My Hair Back

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  • Jessy Lanzaによるデビューアルバム『Pull My Hair Back』、その舞台裏話を知れば、このアルバムは生まれるべくして生まれたと言えるかも知れない。本アルバムはJunior BoysのJeremy Greenspanとの共同プロデュースとなっているが、Lanzaが生み出すディープでレフトフィールドなエレクトロニックポップにとって何故、彼が理想的な存在になるのか彼らと親しい関係の人ならすぐに理解できるだろう。2人は数年の付き合いがあり、2011年の『It's All True』においてGreenspanがLanzaをバックコーラスとして起用したのが最初の仕事だった。本誌のフィーチャーBreaking Throughにて述べられていたように、GreenspanはLanzaの音楽感に対する鋭い嗅覚、特にベルベットのように滑らかなR&Bメロディを生み出す点に惚れ込んだ。そして程なくして彼らはベルリンにあるGreenspanのスタジオにてLanzaの曲に作り上げていくことになったのだった。 『Pull My Hair Back』は、一見すると、Lanzaが好きなR&Bの要素を用いて単に曲を作っただけかのようであり、それはポップミュージックに対して形骸的なアプローチで、時として散漫な印象を強調しているように感じられる。しかしHyperdubにおける幅広い視点をもった新たな一枚である本作は、収録の9曲それぞれにおいて驚くほどに広々とした空間を感じさせ、Greenspanによる煌めくアルペジオ、そして何よりLanzaの歌声が力強さによってしっかりと安定感を保っている。彼女の所作はなだめるように、それでいて寛容だ。それは一種の優雅な催眠術なのかもしれない。 アルバムを通じて、R&Bソングライターとして類稀な才能と広範な音の探求する姿勢、この間で相互作用が繰り広げられている。ディスコ仕様のギター音と鼓動するシンセ、そしてLanzaの強く心に語りかけてくるかのような声を用いた"Keep Moving"のような曲は、完璧な世界があるとすれば、Daft Punkの"Get Lucky"と同じくらいラジオでプレイされるだろう。対照的に実験的な"Fuck Diamond"のような曲もあり、Lanzaの声を素材にクラブ仕様に仕立てあげたトラックとなっている。隠れた場所にある未知の感覚と感情のこもったメロディのコンビネーションにより『Pull My Hair Back』は何度も繰り返し聞かれることになるだろう。そして確実に今年のベストデビューアルバムの1つになるだろう。
  • Tracklist
      01. Giddy 02. 5785021 03. Kathy Lee 04. Fuck Diamond 05. Keep Moving 06. Against the Wall 07. Pull My Hair Back 08. As If 09. Strange Emotion
RA