DJ Sprinkles - Queerifications & Ruins - Collected Remixes By DJ Sprinkles

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  • MuleによるTerre Thaemlitz AKA DJ Sprinklesの新たなリミックス・コレクション『Queerifications & Ruins』はいみじくもThaemlitzにしか作ることが出来ない2つのリミックスからスタートする。この2つのリミックスは、共に2011年のJuneによる作品"Lost Area"を下敷きにし、ひとつは3分間のアンビエント・ヴァージョン、もうひとつは13分間の大作に仕立て直されており、両者に共通しているのは一般的なハウスミュージックの領域をはるかに越えた広大な感情のレンジを持ち合わせているということだ。これは、そのヴォーカル・サンプルひとつをとってみてもあてはまる。女性のヴォイスで"so many tears"と嘆き、かと思えば中盤のブレイクダウンでは"all the way to the bottom, you make me"と呻き、やがてそれは叫びへと変わる。"Lost Vocal"ヴァージョンでは、背後で鳴るパッドは邪悪から鎮静へとその表情を変化させ、やがてすべてはクライマックスでのリヴァーブに浸されたピアノ・ソロへと呑み込まれていく。むっちりとしたベースラインやどこかバウンシーさもあるパーカッションが全体を一貫してクラブ・フレンドリーなものに繋ぎ止めている。 これこそ、Thaemlitzのハウス・レコードならではの妙技だ。彼(彼女)のレコードは、クラブミュージックの領域という典型から遥かに遊離したムードやトピックに触れようとしている。ハウスが苦闘の中から生まれた音楽であるということはいまさら言うまでもないことだが、Thaemlitzほどその事実をたびたび再確認させてくれる作り手はいない。『Midtown 120 Blues』について、彼(彼女)はこう語っている。「ハウス・ネイションはクラブが苦難から逃れるためのオアシスであるかのように振る舞っているけれど、実際はその苦難とはクラブ自身やわたしたち自身の内面にあるものなの」と。これはまさに自明の理だ。Thaemlitzが選ぶマイナー・キー、AIDSやトランセクシャル同士の暴力やとりわけ性の同一性障害によって抱える苦悩へ言及するヴォーカル・サンプルなどはしばしばThaemlitzの音楽の前面と中心にあるものだ。しかし、常にそうであるわけではない。彼(彼女)はDJである以上、パーティ・トラックも持ち合わせており、この2つのモードを行き来する能力はその音楽を非常に豊かなものにしている。 過去3年間のDJ Sprinklesによるリミックスを網羅したこの2枚組パッケージ(ただし、PerlonからリリースされたThe Mole "Lockdown Party"へ提供した素晴らしき"Crossfaderama"ヴァージョンのみ収録されていない)には、その事実がこれ以上ないほど克明に刻まれている。まず、Hard Ton's "Food Of Love"の"Sprinkles' Dubbarama"ヴァージョンを例にとってみよう。この11分にも及ぶディープハウス・ボムはトラックの進行と共にどんどん内省的な志向を増し、やがて3分間のビートレス・ピアノ・アウトロへと着地する。Parallax Beat Brothersに提供した"Exhalation"のDJ Sprinklesリミックスは泡立つようなアンビエント・ピースとして始まり、そこからゆっくりと穏やかに跳ねるようなアフターアワーズ・チューンへと変貌していく。Hardrock Striker "Motorik Life"では、Martin Luther Kingの有名な"I Have A Dream"という(あまりに多くの人々が使用したことによってクリシェ化したとも受け止められかねない)スピーチを引用し、それでいてここではオリジナルの文節をチョップして"despair... despair... the mighty mountain of despair…"と組み替えたこともあって、ダーク且つフレッシュに感じられる。 もしThaemlitzの猛烈さが表れているトラックをひとつ挙げるとすれば、それはOh, Yoko's "Seashore"の"Ambient Ballroom"リミックスだろう。オリジナルのいかにも若者らしいコーラスはアンビエント・テクノのビートとGil Scott Heronが"balling"と繰り返すサンプル("The Subject Was Faggots"から引用されたものだろう)と組み合わされている。ブレイクダウンでは、2人の男が親密な会話をしているのが聴こえてくる。片方がもう片方を励ますようなその会話は、まるで窓台にもたれながら喋っているかのようだ:
    「僕がきみに伝えたいのは、絶望しちゃ駄目ってこと。人生に意味を見つけるってことはそりゃあ厳しいもんさ。ようするに—この奇妙な都市でさ、完全に違うライフスタイルを持った同士で始まったからこそ—繊細さを持って僕らは暮らさなきゃってことなんだ。僕らが正しいと思って選択したことが、かならずしも僕らにとって正しくはないのかもしれないし、たぶんその中味を性格に推し量ることなんてできない。混乱することはあまりに簡単だし、お互いを愛すること、そして僕らの暮らしにおいて何が善いことなのかを見つけることはあまりにも難しい…」
    いっぽう、"faggot balls"(訳注:「同性愛者の睾丸」転じて「意気地なしの男」という意味で使われる俗語)というScott-Heronのモノローグがその背景で投影しているものは、あたかも前述の2人の人物が耐えている不寛容の温度の代弁であるかのようだ。Thaemlitzはプロデューサーであると同時にマルチメディア・アーティストでもあり、この2つの才能の側面がこれほど如実に表れているトラックはなかなか他では聴く機会はない。 Crackに対して最近彼(彼女)が語っていたように、Thaemlitzはこのアルバム『Queerifications & Ruins』を「DJツール」として見なしているようだ。「つまり、これらの楽曲群は関連付けられていないリミックスを集めたものにすぎないってことなの。だから、明確なナラティブ(物語性)を持ったアルバムとか、そういうものとは異質なものなの」とThaemlitzは語っているが、それは彼(彼女)自身の過小評価だろう。Mule MusiqのToshiya Kawaskiは、これらの14トラックを実にスムーズ且つゆるやかなアーチ状にまとめあげているのだ。そこに浮かび上がるのは、性急かつ控えめで、複雑なエモーションが交錯するディープハウス・アルバムである。ここまで書いてきたことに少しでもピンとくるなら、これはきみにとって決して見逃すことのできない作品だ。
  • Tracklist
      CD 1 01. June - Lost Area (DJ Sprinkles' Empty Dancefloor original version) 02. June - Lost Area (DJ Sprinkles' Lost Dancefloor original version) 03. Hard Ton - Food Of Love (Sprinkles' Dubberama) 04. Marco Bernardi - Klinsfrar Melode (Sprinkles' Deeperama) 05. Hardrock Striker - Motorik Life (DJ Sprinkles' Mountain Of Despair) 06. Corbie - Arktika (Sprinkles' Deeperama) 07. Oh, Yoko - Seashore (Sprinkles' Ambient Ballroom) CD 2 01. Parallax Beat Brothers - Exhalation (DJ Sprinkles' Deep Breath mix) 02. Matt Tolfrey - Encarta (Sprinkles' Micro Soft dub) 03. Kuniyuki - Between Shadow And Lights (Sprinkles' Lights Out dub) 04. Ducktails - Letter Of Intent (Sprinkles' Post Script) 05. Adultnapper - Low Point On High Ground (Rock Bottom mix) 06. Area - Bourbon Skies (St. Petersburg Three-Four Blues) 07. Jorge C. - A Little Beat (The World Is Ova megamix)