Old Apparatus - Compendium

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  • Old Apparatusは最初から異端の存在感を放っていた。Deep Mediから届けられたその最初期のリリース群は最も頑強な部類の伝統主義に根ざしたダブステップでありながら、結果としてダブステップの枠組みから逸脱していた。そのかわり、彼らはNine Inch Nailsの鋭い攻撃性とDead Can Danceの美しいポップ性の間にある親和性を提示してみせた。彼らはミステリアスな存在であり続け、そのメンバー構成さえも明らかにしていないのだが、彼らにとっては名前など何の意味も成さないものなのだろう。やがてSullen Toneを立ち上げた彼らは、たった1年のあいだにグループ/ソロでのEP群を立て続けにリリースし、メンバーごとの個性の違いを打ち出してきている。この『Compendium』は「抄録」を意味するそのタイトルが示す通り、Sullen Toneでのリリース群から厳選したコレクションとなっている。 バンド/ソロの寄せ集めという内容を考えれば、ひとつの作品として意外なほどよくまとまっており、結果的にこの集団に共通する手法というべきものをあぶりだしている。ひとことで言えば、この『Compendium』は不明瞭なヴォイスやブレたテクスチャーをドゥーム的なフィルターを通して表現したものである。感動的なアルバム1曲目"Zimmer"から"Lingle"での壮大なニューエイジまで、この作品を貫いているのは陰鬱なムードのなかで蠢く繊細な変化だ。そのピークは、美しいピアノの音色がAutechre調のマシーン・グルーヴの上で飛び交う"Chicago"だろう。まさにこのグループらしい魅力的なサウンドを典型的に象徴しており、そのキャリア中でも屈指の仕上がりだと言える。 Old Apparatusは周囲のシーンのトレンドにはまったく関わりを持とうとせず、そのスタンスはますます複合的な参照構造が進行しつつあるエレクトロニック・ミュージックの世界においては非常に稀有だ。この『Compendium』に収められたサウンドはまるで地下の貯蔵庫の中で作られたかのようであり、地表の世界と関連付けられた記憶の世界から隠遁しているかのようだ。たしかに、"Mernom"のように時折2ステップのビーツが鳴らされたりもするが、彼らは陽気なR&BサンプルよりもThom Yorkeのような幽玄さを持ったヴォイスを好み("Derren")、ストレートなビーツよりもJohn Hughes的なメロドラマ性("Dourado")を好む。 『Compendium』はストリングスと木管楽器で彩られた"Realise"で幕を閉じ、シタールのようなサウンドが宿命的なムードを帯びて地平線の彼方へと消え去っていく。ただただ美しく、そこには陰鬱さのかけらもない。結果として見えてくるのは、彼らは奇妙な儀式を演じるカルト集団ではなく、ただリヴィングルームに集まってジャムするバンドであるということだ。匿名性や彼らを取り巻く憶測、その神秘性というバイアスを取り除いてみれば、Old Apparatusが作る音楽はエモーショナルさに溢れたものであり、決して理解の難しいものではないということがわかる。たしかに彼らは異端の存在かもしれないが、こうした作品を創り続けていれば、彼らは只のアウトサイダーにはとどまらない存在になっていくだろう。
  • Tracklist
      01. Zimmer 02. Mernom 03. Derren 04. Dourado 05. Lingle 06. Cauliroot 07. Boxcat 08. Chicago 09. Octofish 10. Realise
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