Jon Hopkins - Immunity

  • Published
    13 Jun 2013
  • Words
    Resident Advisor
  • Label
    WIG298D
  • Released
    June 2013
  • Genre
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  • 即席で作られてしまうプロダクションについては、多くの逸話がある。かつてTodd Terryはたった1日でアルバム1枚を仕上げてしまったし、今日のモダンなプロダクション手法であれば朝起きて思いついたインスピレーションをその日のうちに形に仕上げて夜にはクラブでプレイするなどということもまったく不可能ではない。とはいうものの、時間をかけてゆっくりと仕上げた作品の価値を見落とすことは出来ない。ColdplayのコラボレーターにしてBrian Enoの愛弟子であり、ピアノの神童と呼ばれるJon Hopkinsは、崇高なオーラをまとったこの4枚目のアルバム『Immunity』を9ヶ月ものあいだイースト・ロンドンのスタジオに籠りきりになって仕上げた。彼の作品は猛烈なドラムと秀逸なサウンド・デザイン、そしてゴージャスなメロディを複雑に絡ませた繊細な織物のようだ。 この『Immunity』は前半と後半の2部構成になっており、最初の4トラックは喧噪渦巻くようなテクノで、後半の4トラックはよりディープで内省的だ。Hopkinsはこの構成に「ナイトクラブ/失望」というありがちな物語性を落とし込んでいるわけではない。クリシェを借りて言うなら、この『Immunity』は一連の旅のようなアルバムだ。とはいえ、その旅路のルートはかぎりなく遠回りなもので、それは多幸感溢れるアンビエント"Sun Harmonics"での暖かな砂の上を騒々しく駆け巡る感覚であったり、疾風のごときChemical Brothers調テクノ"Open Eye Signal"での固まったギアが軋むかのようなシンセにパーカッションが礫のごとく吹き付けられるような感覚にもにじみ出ている。 こうしたあらゆる表情のコントラストを見せながらも、『Immunity』のアルバム全体としての調和性の高さは特筆すべきものだ。オープニングにふさわしく、スタジオの鍵を開けるようなサウンドで始まる"We Disappear"はホワイトノイズに覆われたドラムの上に静電気の閃光がちらつく。いわば最も親しみやすいときのAutechreのようで、ローエンドの蠢きを抜けるとやがてベルとリヴァーブが鳴り響くビートレスのアウトロへと導かれる。Hopkins自身はこの『Immunity』をライブでのパフォーマンスを念頭に置いて作曲したそうだが、アルバム前半は必ずしも完全にフロア狙いというわけではなさそうで、2ステップにシャッフルを効かせた"Breathe This Air"や"Collider"での気怠いキックからもわかるとおり、人工的なうなり声はマイナー・コードに置き換えられ、それがパーカッシブなパターンを奇妙に掻き回すようにループされることでどこか沈鬱なムードを醸し出している。 アルバム前半ではリズムとメロディのせめぎ合いがいつ崩れてもおかしくないほどのバランスを保ちながら進行するのだが、その均衡は突如あっさりと崩れ去る。"Abandon Window"は混沌の中の平穏さを感じさせるようなトラックで、幽玄なピアノがゆっくりとリヴァーブに浸されていく。"Form By Firelight"ではひび割れたドラムの上で単音のキーが反復してリズムとメロディの均衡が再び構築されるような気配を見せるが、タイトルトラックとなる"Immunity"では催眠的な震動と幻のようなヴォーカルでララバイを展開する。この『Immunity』はひとつの旅のようなアルバムだと書いたが、それは実に味わい深い旅だというべきだろう。聴きなおすたびに毎回新たな魅力が浮かび上がってくる、そんなアルバムだ。
  • Tracklist
      01. We Disappear 02. Open Eye Signal 03. Breathe This Air 04. Collider 05. Abandon Window 06. Form By Firelight 07. Sun Harmonics 08. Immunity