The Black Dog - Tranklements

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  • シェフィールドのThe Black Dogにとって、テクノとは音楽的な情熱の対象であり、イデオロジー的な立ち位置のための手段でもある。彼らの地元であるサウス・ヨークシャーに深く根付く社会主義的思想を反映しながら(近作であるEP「The Return Ov Bleep」ではイギリスの左翼政治家の重鎮Tony Bennをサンプルしていた)、このトリオはテクノを地域共同体のためのデモクラティックな音楽として捉え続けている。それは、プレス・シートにも記されているように「メインストリームへの迎合」に抵抗しようとするものでもある。シェフィールドのグラスルーツ音楽集団であるElectronic Supper Clubとの作業を通して、The Black Dogは再びアンダーグラウンドとのコネクションを深めている。それは彼ら曰く「これまでになく調和がとれた、膨らみすぎたエゴや権威志向といった見せかけの価値に屈しない」ものだという。 したがって、当然のようにこの『Tranklements』(ヨークシャーの方言で「大事な物事を集めたもの」という意味だそうだ)はただ一点の目的に基づいて作られている。ドローン、ノイズ、ダブ・テクノといった流行にはまったく目もくれていない。そのかわり、The Black Dogはデトロイトとシェフィールドを繋げるブリープ・テクノの伝統をここで紡ぎ続け、アンビエント・エレクトロニカにテクニカルなエレガンスと誠実なエモーショナルさという2つの側面を落とし込もうとしている。『Tranklements』における彼らのアプローチはヴェテランにしか成し得ない自信と落ち着きという点で、Robert Hoodの『Motor: Nighttime World 3』におけるそれと近しいものを想起させる。 現代的なクラブミュージックのサウンドと呼応しているかどうかという点については、この『Tranklements』には全体的にごく自然なかたちでにじみ出ているように感じられる。ダークなエナジー(メタリックなパーカッション、呻き声、耳をくすぐるひび割れたベース、"oh God... oh God…"という嘆き声のようなヴォイス)が充満した"Pray Crash I"あたりはBen UFOのセットにもすんなりとフィットしそうだ。また、"Hymn For SoYo"での荘厳なオルガンの下に隠された絞り上げるようなノイズはUKベース的なリズムの機能不全を思わせる。だが、The Black Dogは流行を追っているつもりなど微塵もないはずだ。彼らには彼らの方法論があり、自分たちがなにをやっているのかを正確に判断できる成熟したセンスがある。それがテックハウス的なサウンド ("First Cut") であろうと、終盤の3曲"Death Bingo"、"Mind Object"そして"Spatchka"での壮大な展開であろうと、このセンスこそが彼らの明確なアイデンティティを支えているのだ。この終盤の3曲で構成される18分間ではダンスフロアーを自在に出たり入ったりするような感覚で陰鬱さやメランコリックさを含んだテクノや快活なエレクトロニカを展開し、感情に満ちたビートレス・トラック"Spatchka"でピークを迎える。ある面ではクラウト・ロック的でありある面では(Aphex Twinの)『Selected Ambient Works』的でもあるそれはまったくもって美しい。
  • Tracklist
      01. Alien Boys 02. Bolt No 6 03. Atavistic Resurgence 04. Bolt 11b 05. Cult Mentality 06. Hymn For SoYo 07. Bolt 3533f 08. Pray Crash I 09. Pray Crash II 10. Bolt 57w 11. Internal Collapse 12. First Cut 13. Bolt 9>3 14. Death Bingo 15. Mind Object 16. Spatchka
RA