Djrum - Seven Lies

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  • Djrumは近年もっとも興味深いプロデューサーのひとりだ。2nd Drop Recordsからリリースした2枚のEPで彼は豊かで個性に満ちたスタイルを提示し、過去のものと思われていたサウンドを新鮮なかたちで響かせてみせた。そのフォーマットはステディな4/4リズムとダブステップに触発されたビーツを華麗な流動性で自在に行き来していた。彼のプロダクションは滑らかさと豊かさが同居していて、しかもその曲調は複雑な感情を内包しており、他の誰よりもアルバムでの展開が期待されていた。 こうした前提を考えると、この『Seven Lies』がやや陳腐なアルバムに仕上がっていることは余計に驚きだ。もちろん、Djrumのデビュー・アルバムは非常に入念にプロデュースされているのだが、その印象的なサウンドデザインという表面を剥がしてみると、ソングライティングにおける繊細さという点ではしばしば安っぽく感じられてしまう。それでも、好意的に見ればありふれたヴォーカルやプロダクションの価値を損なうようなサンプルのチョイスも却って魅力的で印象的でもあるのだが。 彼らしいマジックはこのアルバムにおいてたしかに遺憾なく展開されている。ビーツはイレギュラーかつ浮遊感に溢れ、イマジネーションの世界はキラキラと透明に広がっている(こういう作品こそ「シネマティック」と評するべきものだろう)。しかし、その反面不快な一面も覗きはじめる。"he's a sinner, a sinner from the ghetto"、"do I need you"、"London city warlord"といったヴォーカル・サンプルのほとんどは陳腐であまりにも保守的で、UKベース・カルチャーのありふれた典型といった風情だ。そういう意味で言えば、Shadowboxがゲスト・ヴォーカリストとして参加している2曲もアルバム全体を台無しにしている。この2曲での彼女のスタイルはそのアーティスト・ネームと同じくらい分かりにくい。ここまでくるとDjrumらしいシネマティックさもほとんどクリシェのように聴こえてきてしまうのだが、そういう点ではこうしたサウンドトラック的なものにインスパイアされたエレクトロニック・ミュージックの枠のなかにすっぽり収まっているとも言えるだろう。 Djrumをエキサイティングな存在にしていた理由のひとつには、そのモダンな感覚にこそあったはずなのだが・・・ここでのサウンドはすっかり時代遅れなものに聴こえる。このアルバムを聴いていると、Nine Inch Nailsにも同じようなレコードがあったなと思い出す。つまり、明らかな才能に恵まれたはずのプロデューサーがあまりにも平凡なアルバムを送り出してしまったときのあの奇妙な感覚だ。Djrumはたしかに素晴らしいアルバムを作り上げるための力量は備わっているはずなのだが、残念ながらこのアルバムはそうはならなかった。
  • Tracklist
      01. Obsession 02. Como Los Cerdos 03. DAM 04. Arcana (Do I Need You) 05. Lies feat. Shadowbox 06. Honey 07. Arcana (coda) 08. Anchors feat. Shadowbox 09. Thankyou
RA