Bibio - Silver Wilkinson

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  • まもなくリリースされるBoards Of Canadaのアルバムに彼らの完全無欠な状態を期待しているリスナーならば、このBibioも興味深く聴くことが出来るはずだ。Stephen Wilkinsonが手掛ける音楽は初期BoCと同じく焦点のぼやけたポラロイド的質感を持ち、歪んで色彩の滲んだ記憶を呼び起こさせる。この『Silver Wilkinson』は彼にとって2011年の『Mind Bokeh』以来となる作品だ。"bokeh"とは写真の焦点外の部分を指した日本語(ぼけ)であり、このエリアは『Silver Wilkinson』でも再び探求の題材となっている。 "Dye The Water Green"は記憶の遠い底にあるフォーク・ロック的な伝統を思い起こさせ、そのどこか幽霊のようなムードは徐々に曲の中で染み渡っていく。その効果は"Wulf"においてさらに顕著で、洞窟でレコーディングしたアコースティックな素材を何度もカセットテープでダビングを繰り返して劣化したかのような質感だ。巨大で銀色に光る、オールドスクールなアナログ・シーケンサーが明快なフレーズを鳴らす"Mirroring All"を経て、やがてリード・シングルでありアルバムの中核を成す"A Toute A L'Heure"に辿り着き、その牧歌的な小旅行は完璧な春のためのサウンドトラックとなっている。 アルバムも前半を過ぎると、よりモダンな傾向を示していく。"You"でのファンキーなサンプル・リフはまるで初期のDaft Punkのようだ。"Look At Orion!"では、まるでリスナーの頭が星に向かって引き上げられるかのようであり、かっちりとした目の回るようなリズムとコズミックなシンセが一体となって頭上に広がり、まるでトラック自体がその空間の中で浮遊しているかのようだ。"You Won't Remember"ではリスナーはようやく血空へと着地し、よりBibioらしい領域に落ち着く。 Bibioは一見聴きやすそうにみえて、じつはそうではない。自らのその作家性からどれだけ引き出すことが出来るか知りたいと思わせつつ、彼は我々を混乱させる。まるで午前中のTV番組の合間に流れているような取るに足らないものに思わせつつ、そこに尋常ではない深みを作り出してみせるのだ。
  • Tracklist
      01. The First Daffodils 02. Dye the Water Green 03. Wulf 04. Mirroring All 05. À tout à l'heure 06. Sycamore Silhouetting 07. You 08. Raincoat 09. Look at Orion! 10. Business Park 11. You Won't Remember...
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