Outboxx - Outboxx

  • Share
  • Outboxxが次にリリースする作品がフルレングスのアルバムであるという事実は、至極自然なものに思える。このたった18ヶ月のあいだに、Jacob MartinとMatt Lambertは威勢の良いハウスから優美なエレクトロ、サイファイ的なダウンビートまで多様なフォーマットを主にブリストルのレーベル群からリリースしながら愉快に軽々と駆け抜けてきたが、そこに落とし込まれてきたのはハウスやエレクトロとは遠く離れたところにある影響源だ。彼らの無垢でありながらどこかわくわくさせる旋律はもはや彼らのトレードマークの一部となりつつあり、L.I.E.S.などのレーベル群のおかげでハウスというものがより複雑怪奇なものになりつつある昨今にあって、Outboxxのようなプロジェクトが相も変わらず楽しく親しみやすい音楽を、そのオリジナルなスタンスを保ちながら作っているという事実は実に好ましい。 Idle Handsから届けられたこのアルバムは、まるでこれまでOutboxxがやってきたことの集大成のようにも感じられる(とはいえ、そのキャリアはまだ始まったばかりではあるのだが)。Naomiによる特徴的なヴォーカルは"Jaded"や"Reflections"といった多幸感あふれるアンセムをはじめとしてアルバムの随所に顔を覗かせているが、その使い方は予定調和に陥らないよう異なる文脈で落とし込まれている。ときには彼女のヴォイスは駆け上り、ときにはエコーの中に沈み込んだりもする。ときには、解読可能な人間の声というよりはまるでひとつの楽器のように彼女のヴォイスのトーンが使われているところもある。 正統派のロウファイでアナログなサウンドではあるが、同時にその人懐っこいメロディや心に残る旋律はごく丁寧に織り込まれており、このアルバムはまるで緊張感のあるセッションというよりはソファでリラックスしながら作られたようにも感じられる。それはアルバム1曲目が"Home"というタイトルが付けられているという理由だけではない。"Home"は実に親しみやすく、Nightmares On Waxの多幸感を純粋に抽出したかのようなトラックで、爪弾かれるベースに導かれて満天の星空が広がるようだ。ここから、アルバムはさらに力強く展開する。"All The Right Moves"は同様にリラックスしたムードのトラックで、リードシングルともなった輝かしい空中浮遊的なハウス・トラック"Jaded"でついにダンスへと導く。Outboxxにとっては抑制という言葉とは無縁で、"Sunshine Mills"での歓喜のようなバウンス感はアルバムの折り返し地点でムードとグルーヴをより祝祭感のあるものに変化させ、そこからアルバムは内省的なものにそのムードを変化させていく。アレンジこそ以前として隙間を活かした整頓されたものであるのだが、その空感性はより痛切なアトモスフィアを醸し出していく。 "Lost Soul"や"Thrashing Groover"といったスローでうねるようなトラックを例にとってみるとよい。これらのトラックは、ジャングル的躍動感とダビーさとデトロイト・テクノ的なマシーン・ソウルのちょうど中間で残り火のように燻っているのだが、エモーションにあふれアンビエンスを醸し出すその個性はまちがいなくOutboxx独自のものだ。もしこのデュオのミッションが「おもしろい音楽を創るためには、必ずしも分かり切っていることをやり直す必要はない」というものだとしたら、その意味で彼らはあらゆるレベルで成功していると言えるだろう。
  • Tracklist
      01. Home 02. All The Right Moves 03. Jaded 04. Sunshine Mills 05. Jewel City 06. Lost Soul 07. Thrashing Groovstar 08. Withdrawal 09. My Destination
RA