The Knife - Shaking The Habitual

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  • ブランコに揺られた2人の写真が載った意味深なプレス・リリースを経て、このリリースには13分間のヴィデオが付属している。こうした一連のthe Knife再始動における動きは、実際の彼らの音楽がどんなものであったかにわかには思い出せなくさせている。しかし、これこそがOlof DreijerとKarin Dreijerらしいやり口なのだ。the Knifeとして活動するこの兄妹デュオのマテリアルは、とりわけジェンダー的役割という観念についてゆるやかな皮肉が込められている。 活動7年目にしてようやくリリースされた正式なファースト・アルバム『Shaking The Habitual』において、このテーマは以前にも増してより入念に織り込まれている。1時間40分にも及ぶアルバムでは、イデオロギーに起因する怒りが横溢している。そのアイデアを具現化するKarinのヴォイスはしばしば歪み、中性的な響きを伴って肉感のない質量が彼女の荒っぽい口調を疾風のように駆け抜けさせている ("let's talk about gender, baby/let's talk about you and me" —— ベイビー、ジェンダーについて話そうよ/そう、あなたとわたしのことについて)。その根底には、ほとんど読み取れないほど複雑な引用と政治的な声明が織り込まれており、(石油・天然ガス開発における)水圧破砕法のような甚だしい環境破壊について激しく糾弾したかと思えば、Margaret Atwoodの著したポスト黙示録小説『Oryx & Crake』に対する共感を表明したりもする。 こうした公然としたポリティカルな要素の導入だけが今作の目新しい点ではない。以前の彼らの作品で聴かれたひんやりとしたエレクトロニックさを帯びた基調は今回ほとんどの部分で消え去っている。このアルバムははるかに刺々しく、よりオーガニックで嵐のようなドラム、ノイズ的展開(OlofのOni Ayhunとしての作品と同様だ)、より存在感を増したドローン・シークエンスなどにおいてインダストリアル的感覚が強く押し出されている。ファンは"Marble House"のようなトラックを再び期待しているかもしれないが、ここにはそうしたトラックは2曲ほどしかない。泡だらけの沼からゴージャスなヴォーカル・フックが浮かび上がる"Raging Lung"や、エレクトロニックな粒子が生き生きと飛び交う"Ready To Lose"がそれだ。そのかわり、この長尺なアルバムで浮かび上がってくるのはAmon Duul的な壮大なクラウトロック・ジャムであり、Einstürzende Neubautenのドラッギーなエレクトロニクスであり、Gang Gang Danceのアーバンなトライバリズムの幻影だ。とはいえ、そうした過去の参照との相似点を見出すことができる一方で、この『Shaking The Habitual』で展開されているサウンドはやはり異端かつ不可思議性に満ちており、the Knifeにしか成し得ないものであることは確かだ。   ドラムが震動する"A Tooth For An Eye"、筋骨隆々の"Full Of Fire"という2枚のリード・シングルから幕を開けるこのアルバムで、the Knifeは冒頭から臨戦態勢だ。やがて、"Cherry On Top"でのさえずるようなドローンで一旦勢いを収める。"Without You My Life Would Be Boring"では繊細に作り込まれたリズムが妖精が吹くフルートのようなサウンドで柔らかく包み込まれている。いっぽう、"Wrap Your Arms Around Me"は荒涼として朽ちたムードを放ち、流れるというよりはまるで悲鳴をあげているような儀式めいたドラムとシンセの上には真っ黒い塊が鎮座している。 この作品を取り囲むサウンドそのものや展開は、かつてのSilent Shoutとも近しいように思える。アルバムのファースト・ディスクにおける最終盤を飾る"Old Dreams Waiting To Be Realized"は19分にもおよぶ陰気にゆっくりと変調していくドローンで、彼ら自身も参加していた2010年制作のCharles Darwinをテーマにしたオペラ『Tomorrow, In a Year』からそう遠くない場所に位置している。同様の事は"Fracking Fluid Injection"でのヴォーカルが破片になったかのようなドローンに対しても言える。"Networking"は痙攣してゆがんだ疑似テクノ的なトラックで、これはOni Ayhunの作品にも近いアプローチだ。アルバム全体を通じて、まるでリスナーと彼ら双方のなかにある期待を試して刺激するかのように、時折にわかに沸き立ったり鎮静したりしている。また、彼らはアルバム全体の豊かなオーガニックさを解きほぐし、ほとんどシンフォニックといえそうなほど複雑な音響パズルを展開する。今年リリースされたどんな作品に比べても、これほどチャレンジングで壮大なヴォリュームを持ち、究極的に不可知なものはないはずだ。
  • Tracklist
      CD1 01. A Tooth For An Eye 02. Full Of Fire 03. A Cherry On Top 04. Without You My Life Would Be Boring 05. Wrap Your Arms Around Me 06. Crake 07. Old Dreams Waiting To Be Realized CD2 01. Raging Lung 02. Networking 03. Oryx 04. Stay Out Here feat. Shannon Funchess and Emily Roysdon 05. Fracking Fluid Injection 06. Ready To Lose
RA