Space Dimension Controller - Welcome to Mikrosector-50

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  • Jack Hamillはもう何年ものあいだ、自らの作家性というべき個性をこつこつと積み上げてきた。2009年にデビューしたこのベルファスト出身のプロデューサーの内面に広がる宇宙は少しづつその姿を現してきている。デビューから4年、ついに彼のファースト・アルバムがここに届けられた。まず良い知らせから先に述べると、この『Welcome to Mikrosector-50』がその長きにわたる制作期間の成果として相応しい、細部まで行き届いた作品であるということだ。もうひとつ特徴的なのは、このアルバムにはラジオ・ドラマ的なコンセプトが深く浸透しているという点だ。スポークン・ワードやポップなヴォーカルにあふれたそれは、かつての彼のリリースにおける軽やかなスペース・ジャムから比べると大胆な飛躍であると言えよう。 アルバムの冒頭から、そのコンセプトは一目瞭然だ。"Mr 8040's Introduction"まで繋がるふたつのインストゥルメンタル小品では、ラジオ・ドラマの主人公(その声は、Hamil自身の印象的なヴォイスによって演じられている)がわざと80年代の安っぽいスタイルのラップで登場する。そのストーリーを簡潔にまとめると、『Welcome to Mikrosector-50』は主人公であるMr. 8040が波乱に満ちた冒険の旅を経て、ふるさとの惑星に帰還する、というものだ。そこにはタイムトラベルや傷心、不法なドラッグなどが登場し、簡単明瞭なダイアログの流れと硬質なロボ・ファンクによってストーリーが進められていく。 過去の彼のリリース群がそうであったように、Hamillはデトロイト・エレクトロと70年代後期のAlan Parsons Projectの影響による洗練されたメロドラマ性をシームレスに繋ぎあわせ、80年代初期のミニマル・ファンク的な枠組みの中に落とし込んでいる。そのアプローチは決して誰にでも思いつくようなものではないのだが、Hamillにとってはごく自然なことなのだろう。アルバムの表題曲ではPrince & The Revolution的なジャムが展開されていたり、"Rising"では「Harnessed The Storm」期のDrexciyaを彷彿とさせる部分があったりと、そこかしこにHamillが影響を受けたルーツ的部分がのぞいてはいるが、このアルバムは決してそれらがすべてではない。彼の明白なノスタルジア感覚とこのアルバムのコンセプト性は表裏一体となってリンクしており、そのどちらかが欠けても成立しないものになっているのだ。 もうひとつ特徴的な点として、そのヴォーカルが挙げられる。最初こそ気を逸らされるようにも感じられるものの、それほど派手に悪目立ちしているわけでもない。たとえば、"When Your Love Feels Like it's Fading"での抑圧されたかのようなヴォーカルはそのすぐ後に続く4分間のシンセとギターの粋なインタープレイへの導入として機能している。そのトラックは会話を中心にしたインタールードとなっており、アルバム中盤を締めている。ラップ・アルバムにおける何気ないスキットのように思わせる部分も少しあり、ファニーな感じもするがしばらく繰り返して聴いていると音楽そのものとリスナーの関係を邪魔しているようにも思えてくる。 冒険心と飾り気の無い素朴さが一体となったこのアルバムは、まるで幼い子供の膨らみすぎたイマジネーションの世界を覗き込んでいるかのようだ。Hamillには、その無垢な想像の世界に広がる素晴らしい輝きをサウンドとして現実世界に提示してみせる能力がある。ひとりよがりなB級映画のように笑い飛ばしたり退屈を感じることもあるだろうが、それでも楽しまされてしまうアルバムだ。
  • Tracklist
      01. Feature Presentation 02. 2357 A.D. 03. Mr. 8040's Introduction 04. Welcome To Mikrosector-50 05. Confusion On The Armament Moon 06. When Your Love Feels Like It's Fading 07. A Lonely Flight To EroDru-10 08. You Can't Have My Love 09. Rising 10. Quadraskank Interlude 11. The Love Quadrant 12. Back Through Time With A Mission Of Groove 13. Closing Titles
RA