FaltyDL - Hardcourage

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  • 過去数年におけるFaltyDLのミューズを探し求める試みは、彼の音楽そのものと同様に不安定なものだった。彼が次にどんなものをリリースするかは予測不可能だし、彼自身もまた予測の出来ない裏切りとのらりくらりとした迂回を楽しんでいる節も見られる。バウンシーな2ステップを手掛けようと、はたまたクラシックなハウスを手掛けようと、彼はそれらをビバップとIDMの中間の神経質なバランスの中に配置する。しかし、最近になってDrew Lustmanが手掛ける音楽は少しばかりの安定を手に入れたようだ。彼にとって新たなホームとなったNinja Tuneでの作品は穏やかかつフォーカスされたものになっており、その歓迎すべき傾向はこの彼にとっての3枚目のアルバム『Hardcourage』においても引き継がれている。 この『Hardcourage』は、これまでのLustmanにおける無限に広がるようなサウンドの連なりからいったん離れ、そのサウンドの周辺を精査し、心地よく落ち着ける場所を見つけたかのようでもある。より具体的に言えば、かつての彼のPlanet Mu作品で聴かれた狂乱的な跳ねっぷりを快活なシャッフル感に置き換えた、といったところだろうか。1曲目の"Stay I'm Changed"にしろ、"Straight & Arrow"にしろ共にストレートなリズムの上で曲がりくねったメロディが絡んでいる。これまで正確なクォンタイズ感とは無縁だった彼の音楽だが、それまでの乱雑なアブストラクト感から打って変わって今回はモーダルなメロディが聴かれる。これまでにない心地よさではあるのだが、アルバムが中盤に進むとその心地よさは薄れていき、"Finally Some Shit/The Rain Stopped"と"Kenny Rolls One"は12分の連続したリニアな即興といった趣だ。 このアルバムにおける成熟した自意識に基づく構造はそのサウンドデザインにも反映されている。Lustmanはこれまでも虹色のように煌めくパッドと眩いシンセを好んできたが、たとえば"Uncea"のようなトラックで彼はそれらのサウンドのテクスチャーをゴージャスで新しいエフェクトとして昇華させている。そのトラックは、まるで鮮やかなレンズのフレアと気化ガスの痕跡から生み出されたかのようである。"She Sleeps"でもそのサウンドの構成が同様に活かされており、蠢く金属が発する静かなノイズが弾けるようなそのサウンドはFriendly FiresのEd Macfarlaneによる天上のように美しいヴォーカルと相まってLustmanのキャリアにおいてもベストのトラックといえ、さらに意味深で不安定なリリックも聴き手の興味を誘う。 もちろん、こうした抑制の実践という点においてのみFaltyDLというアーティストを評価するべきではないし、この『Hardcourage』はこれまでのFaltyDLらしい狂気に満ちたスピード感を愛するファンを満足させる部分もしっかり持ち合わせている。エレクトリック・ピアノにぎくしゃくしたリズムが事も無げに溶け込んでいく"For Karme"はまるでゆっくりとした自由落下のようでいて、リズムの一撃ごとにリスナーのみぞおちを抉ってくる。"Korban Dallas"と"Re Assimilate"では(これまでに比べると少しだけスローになっているとはいえ)奇妙で生ぬるいサンプルが従来のFaltyDLらしさをにじませる。あたかもLustmanがその性急なマインドを落ち着かせるように、ギラついたメロディを弾けさせるかわりにしばし丁寧に音楽を作り上げた—まさにアルバム全体がそうした印象なのだ。『Hardcourage』はかならずしも彼の音楽における最もエキサイティングな部分を反映したアルバムではない。むしろ、やや眠気を誘う部分もあるくらいだ。しかし、目を半開きにしたかのようなドリーミーさを持ったアルバム最後の"Bells"を聴き終えると、そんなことは気にならなくなっているはずだ。
  • Tracklist
      01. Stay I'm Changed 02. She Sleeps feat. Ed Macfarlane 03. Straight & Arrow 04. Uncea 05. For Karme 06. Finally Some Shit/The Rain Stopped 07. Kenny Rolls One 08. Korben Dallas 09. Re Assimilate 10. Bells
RA