A Guy Called Gerald - How Long Is Now

  • Share
  • もしベルリンを訪れたりもしくは住んだりしたことのある人なら、いまでは無くなってしまったArt House Tacheles(訳注:ミッテ地区に存在したアートハウス。正しくはKunsthaus Tachles。本来は1907年に建てられたデパートメントであったが1928年に倒産、その後ドイツの高級家電メーカーAEGのショウルームとして使われ、第二次大戦時にはナチ党運営拠点となり戦時中には幾度となく連合国軍による空襲の標的となった。戦後長らく廃墟同然の姿を晒していたが、1989年のベルリンの壁崩壊を契機に国内外の前衛アーティストやボヘミアン達が不法占拠するようになり現代ドイツにおけるアート・シーンの中心的存在として知られるようになった。2012年9月に閉鎖された)の壁に刻まれた"How Long is Now"という落書きとその下に大きく描かれた顔のグラフィティを憶えているだろう。何を隠そう、そのグラフィティはまさにA Guy Called Geraldその人の顔を描いたものである。一時期ベルリンに住み、当地のアーティストたちを繋ぐ重要なハブとして活躍した彼の顔は、Tachlesに住み着いていた無名のヴィジュアル・アーティストたちの手によって建物の壁に描かれたのだ。Geraldによるこの最新作が今はなきTachlesへのオマージュであるのかどうかは明らかにされていないが(リリース元であるBosconi Recordsはそれを「奇妙な偶然」と称している)、2012年も暮れに差し迫ってきた頃に届けられたこのイギリス人プロデューサーによる今年初めてのソロ作品には、そこに込められた音楽そのもの以上の重要な意味合いを感じ取らずにはいられない。 表題曲の"How Long is Now"は洞窟の中で鳴り響くような長尺のトラックで、ダークにせり上がるベースと不安をかき立てるようなアシッドがグリッチーでミニマルなドラムと斜向いに配置されている。ステディかつ気怠いハーモニーを奏でながら動き続けるそれらのエレメントは、まるでそれがそのまま永遠に続くかのような印象を与える。こうした類のレコードはいつどんな場所でプレイすればいいのか想像しにくいが、ベルリンであれば不思議とすんなりフィットしてしまうだろう。空に突き上げるような"Groove of the Ghetto"と唄うハウス・ディーヴァのヴォーカルはトラック自体の陰鬱なムードに対し唐突でハッキリとしたコントラストを与えているが、Geraldの手掛ける荒削りなキックの群れやうねるようなベースラインはそれ単体でもデトロイトをダーク仕立てにしたソウルフル・ハウスとして十二分に機能している。 "202"にはAサイドのような焦らし続けるような展開はなく、どっしりとしたキックがワイルドな魅力をもったアシッド・シンセに絡んでスタートする。まさにリスナーを包み込み、捻れて陽気なダンスに誘い、やがて揺れるようなベースが迫ってくる。これが直接的なオマージュかどうかはさておき、このEPはTachelesの継続的なラジカルさと刺激的な存在感を体現したものだと言えそうだ。
RA