Various - American Noise

  • Share
  • 2011年とは打って変わって2012年には徹底的なリリース攻勢に出たRon Morelliのレーベル、L.I.E.S.はラフでDIY的なベクトルに向かおうとしているハウス・ミュージック界において静かなる革命を起こしている。このブルックリン発のレーベルから次々と限定でリリースされる、カビ臭く擦り切れたグルーヴは瞬く間に流行し、あらゆるタイプのDJからの賞賛を浴びた。そのレーベルカラーは緩やかで、なおかつ全体の音像にこだわり具体性よりも「感じること」に重きを置いている。Long Island Electrical Systemsのサウンドは、まさにこうした要素とアナログ機材およびディストーションこそが肝だったと言ってもよい。それでも、Morelliが過去3年に送り出してきたアーティストたちはレトロ・ハウスにも威勢の良いテクノにも寄り添い過ぎることなく、見事な作品をリリースし続けてきたのだ。 ホワイトレーベルやレア・リリースを含めたそのおそるべきリリース量のおかげで、L.I.E.S.におけるすべてのリリースを追いかけるのはなかなか難しい。そこで届けられたこの『American Noise』は、これまでのレーベルの歩みをCDフォーマットでダイジェスト化して提示した、ファンにはありがたい1枚だと言えるだろうし、どこか堂々としたものさえ感じられる。ディスク1の最初の4曲は既にリリース済みのL.I.E.S.ハイライトと言うべきトラックが並んでおり、Jahiliyya Fieldsのニューエイジ的な輝き、Steve Mooreによる陶酔の魔術、Marcos Cabralのバレアリック仕立てのポストパンク、Legoweltの"Sark Island Acid"での官能における素晴らしさは言うまでもない。その他にも、Torn Hawkによる霞がかったスペース・ロックやBookworms "African Rhythms"での忘れがたい不安定ないびつさなど、ハイライトはこの後にたっぷりと控えている。 ディスク2にはこれが初公開となるニューマテリアルで構成されており、コレクター気質のファンを多く抱えるこのレーベルにとって、このコンピレーションの大きなウリとなっている。Torn Hawkによる"This Is Crime & Lace"からしていきなりの衝撃で、摩耗されディストーションで歪まされたそのドラム・ループはまるでおんぼろのテープデッキでThrobbing Gristleを聴いているかのようだ。Legowelt "Ferns of Draconis"はここ最近彼が展開している豊かな質感に薄雲を被せたかのようなムードで、Bookworms "360 Waves"は線の細いイタロ・ハウスを濃いアナログの霧の中に放り込んだかのようなトラックだ。Delroy Edwardsは"Feelings"での脈動するファズで(またしても)リスナーの忍耐力を試したりもしているが、このディスク2での満場一致のハイライトはシカゴから現れた謎のニューカマー、Svengalisghostによる"Untitled"で間違いないだろう。「Mind Control EP」ではまだまだ未知の要素が多かった彼だが、ここではそれらがよりクリアになり、フェイジングするパーカッションとダーティなハロウィン調シンセが気楽さと断固たるシリアスさを同居させており、Morelliがこれまでに放ってきた秘密兵器のなかでも出色の出来となっている。 この『American Noise』のディスク2にはこのレーベルらしいスケール感と実験性がよどみなく共存している。ダンスフロアーに対する視点もたしかに片隅にはあるのだが、かつてRAのPhilip SherburneがTerekkeの2011年リリース"Pf Pf Pass"での催眠的ハウスにおいて評した「密室のファンク」と呼ぶべき感性はここでもさらに色濃く表出している。これは決して「アウトサイダー・ハウス」や「ヒップスター・ハウス」と呼ばれるべきものではなく、ハウスやテクノの皮を借りた不定形で実験性を伴った音楽と言うべきものなのだ。 そして、Ron Morelliの存在感たるや絶大なものだ。彼のトラック(彼はこのディスク2においてTwo Dogs In A Houseの一員として参加している)にはアマチュア臭さの欠片もなく、ほとんど知られていない才能の類稀な天性を見出すキュレーションの確かさにも見事というほかない。L.I.E.S.におけるクオリティ・コントロールはかくも素晴らしいものだが、このレーベルがもともとほとんど世に知られていないアーティストを中心にスタートしたことを考えれば、現在の輝かしいレーベルの姿は驚きにも等しい。L.I.E.S.というレーベルはかくも自由であり、一度その魅力の虜になると次にどんなリリースがやってくるのか楽しみで仕方なくなってしまう。この『American Noise』とてそのレーベルの今後の方向性に対する明確な答えは用意されていないのだが、このアルバムで展開されているさまざまな道筋から判断するに、2013年も彼らの動向には注目せざるをえないだろう。
  • Tracklist
      CD1 01. Jahilyya Fields – Servant Garden 02. Steve Moore – Frigia 03. Marcos Cabral – 24 Hour Flight 04. Legowelt – Sark Island Acid 05. Terekke – Pf Pf Pass 06. Maxmillion Dunbar – Cassette Arabic 07. Bookworms – African Rhythms 08. Torn Hawk – Shock Tape 09. Two Dogs in a House – 5th Floor 10. Svengalisghost – Deep Into Memory 11. Vapauteen – Measure CD2 01. Torn Hawk – This is Crime & Lace 02. Bonquiqui – Sandsovtime 03. Terekke – Asidis 04. Legowelt – Ferns From Draconis 05. Bookworms – 360 Waves 06. Unknown Artist – Journey I. 07. Delroy Edwards – Feelings 08. Xosar- Tropical Cruize (Delroy Edwards Remix) 09. Marcos Cabral – Tio Rico 10. Hassan – Merciful And Blessed 11. Beau Wanzer – Jail Lock
RA