Beneath - Illusions

  • Share
  • 私も他の人々の例に漏れず、このUKのプロデューサーBeneathの名前を初めて認識したのは今年始めに彼が発表したFACTミックスだった。その魅惑的なシンコペーションを伴った無慈悲なグルーヴはまさしく圧巻であったと言って良い。彼自身のレーベル、No Symbolsからの2枚のソリッドなEPリリースを経て、Martin ClarkのKeysoundから届けられたのはこの素晴らしき「Illusions EP」だ。 1曲目の"Prangin"ではぐらぐらと揺れた小気味よいブレイクにハンド・パーカッションが乗り、長くうねった金属的な軋みが神経質なムードを醸し出す。あまりにも複雑に重ねられたパーカッションは小節ごとの繋がりがほとんど分からないほどだ。ほとんどのトラックで中心のメロディ的エレメント("Blonde"での心地よいチャイムや"Wonz"での滑らかなピアノなど)のまわりにこうした身震いするようなシャッフル感覚が埋め込まれている。 彼の作る作品で驚かされるのは、その尋常ではないタイトさだ。彼は、実存的な恐怖感を複雑な攻撃性で補強している。それはダブステップとも同種のものでありながら、その表現手法はよりコンパクトで婉曲的だ。このEPのタイトルトラックでの緻密さが積み重ねられ、やがて戦慄のアトモスフィアが創出されるさまが素晴らしいのは、まさにこうした理由によるものだ。いっぽう、"Tribulation"では彼のエキゾチズム的な側面が顔を覗かせており、その煙たい質感と中東っぽいメロディはLHFを彷彿とさせる。 だが、現時点での彼のベスト・トラックは完全に彼自身の手によって作られたものではないかもしれない。彼がBallistiq Beatsの"Concrete Jungle"をリミックスしたトラックは、それほど強烈なのだ。オリジナルはスカスカな持ち味が特徴だったが、Beneathはそのリリックにおける都市の疲弊感をそのまま援用し、金属が軋みをたてるリズムの迷宮のごとくタイトに仕立て直している。ここには、他のほとんどのUKダンスミュージックから失われてしまった闘争・逃走反応を直接刺激するかのようなセンスがまざまざと感じ取れる。ハングリーで説得力に満ちた、まさに強力と言うほか無い作品であり、この作品によって彼の名はUKシーンの新星として確立されることであろう。
RA