Sigha - Living With Ghosts

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  • Sighaはこれといって特徴的なサウンドの個性を持っているというわけではないので何とも説明しがたいのだが、彼はまちがいなく私が過去2年で個人的に最も注目してきたプロデューサーだ。Hotflushでのデビュー作ではアンビエント的ブロークン・ビート ("Bruised")、柔らかなディープ・ハウス ("Rawww")、流体的なテクノ ("The Politics of Dying")といったトラックを披露し、UKテクノ復興における異端児として注目を浴びた。ここ1年ほどの彼は、彼の異種的なサウンドをスカスカで空間の中に漂うようなテイストを断固としたテクノに注ぎ込んできたように思う。この突如として姿を現したJames Shawのファースト・アルバム『Living With Ghosts』には、まさにそうしたサウンドが活かされている。 そのタイトルからも窺えるように、このアルバムには暗闇のようなエコー・チャンバーの中を言葉では言い表せないほどのサウンドが駆け抜ける不穏なムードをたたえている。アトモスフィアにフォーカスしたこのアルバムは、他のどのテクノ・アルバムにもないサウンドの包容力を感じさせる。最も近いのはMarcel Dettmannのアルバムだが、このアルバムはそれよりは無慈悲ではなく、アルバム全体を通してあらゆる瞬間に実験精神が埋め込まれているという印象だ。 収録されているトラックのなかには、彼のBlueprintでの作風を思わせるヘヴィーなものもあるが、そのサウンドの核はあくまでも暗く深い沼の中で飛び跳ねているような質感だ。トラックのほとんどに応用されているのは、トンネルを突き進むようなベースラインとごく薄いビームで汚しをかけたコードである。しかし、アルバム全体の小気味よい展開のおかげで、それらが難解で凝り過ぎたものには感じられない。"Scene Couple"はまるで液体化した金属のように形を変え続け、"Faith and Labour"や"Dressing for Pleasure (Ideal)"といったよりアグレッシブなトラックにおいてさえもその滑らかな質感は変わらない。どのサウンドも強烈な一撃で耳を惹くと言うよりは、じわじわとリスナーを侵食するかのような趣だ。ありきたりな表現になってしまうのを承知で言うと、この作品はまさにヘッドフォンで聴くべきアルバムだ。 しかし、このアルバムにはクラブ・フレンドリーな展開もしっかり用意されている。才能あふれるサウンド・デザイナーであるSighaは、決してそれをひけらかすようなことはしないが、彼の魅力は終わりなきパターンと無限に続くかのようなリヴァーブに満たされた底なし沼のようなサウンドにあると言っていいだろう。このアルバムにおけるアンビエント的な展開はいとも簡単にリスナーを引き込み、アルバム全体の一貫したグレースケールの世界観の中に効果的なアクセントを与えている。"Suspension"といったインタールードは単なる短いドローンには収まらず、非人間的なフリークエンシーとインダストリアルなノイズで塗り込められた風景を投影している。 67分にもおよぶアルバム最後のトラックは、金属が軋み合うような11分の長尺トラック"Aokigahara"だ。このトラックのタイトルはその驚くべき静寂さを誇りつつも自殺の名所としても知られる青木ヶ原樹海からきているそうだ。それを踏まえると、暴力的なパワーと深い寂寥感、感動的なエモーションを溶け合わせたこのトラックはより刺激的なイメージを伴ってくる。まさしく奇妙な錬金術の賜物であるが、この才覚があってこそShawが作るテクノを魅力的なものにしているのだ。