Pangaea - Release

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  • Pangaeaの新作は8曲入りだって?イギリスの偉大なコメディアン、Tony Hancock風の言い回しになってしまったが、Pangaeaの新作はほとんどフルアルバムといっても良いほどのヴォリュームだ。しかし、思い起こせば彼がこの前にリリースしたシングル「double EP」にしたって、43分ものヴォリュームであった。と同時に、こうした長尺に向かう傾向は、さまざまなエレクトロニック・ミュージックからの影響を吸収しつづけるPangaeaことKevin McAuleyの音楽がリリースを重ねるごとに伝統的なテクノのスタイルに近づきつつあることを証明している。それでもやはりPangaeaの作品である以上、そのテクノ解釈は独創的ではあるのだが。 そうしたテクノ的な要素は冒頭から明らかで、"Game"ではそれらが豊かな色彩とヴォーカル的な要素において露呈されている。テクノとヒップホップの荒々しいリズムを節操なくハイブリッド化した"Release"というトラックは、Missy Elliottが言うところの「ゲームの中から出し抜くためには、自分の信じるやり方を貫け」というポリシーを改めて忠実になぞっていると言える。ビートレスの前半ではキックを抜いた蒸気機関車のようなリズムを敷き、Delia Derbyshireさながらの原始的なシンセ・コードがぽっかりとした風穴を空け、やがて歪んだサブ・ベースが唸りをあげはじめる。 "Trouble"においては、そのサウンドのテクスチャーに初期ハードコアのスピリットを匂わせつつ、そのBPMはゆったりと仕立て直されている。対照的に、本作品中最もダンサブルなトラックであろう"Majestic 12"では、狂乱的なスネアが140BPMのテクノ・トラックの上でピリッとスパイスを効かせている。もし目隠しをされて何の情報もないままこのトラックを初めて聴かされたら、スコティッシュ・テクノの偉大なパイオニアNeil Landstrummのトラックだと間違えても不思議ではないはずだ。 これでもまだようやくEPの中盤だ。EPの後半は痛烈に鞭を打つような"Time Bomb"ではじまり、"Middleman"はどこまでも伸びていきそうなスネアとレイヴィーで高速なヴォーカル・サンプルやワウワウでうねるシンセ・スタブが組み合わされている。"Aware"はまるで同時にいくつものトリックを展開しているかのように、オフビートのドラムがトップ・レイヤーとして重なるいっぽうでタイプライターを叩くような軽いスネアのクリックやエコーのかかったトライバルなタムが重なり、さらにルーディーなベースラインが絡む。 そこに象徴的な薄いハイハットを重ねると、ちょうど"High"で展開されているような捻れたアンビエンスが出来上がる。さらに原始の雄叫びがストレッチされたものが加わると、それはまさに摩訶不思議で美しくも麩御きわまりない悪夢の世界となる。これこそがまさにPangaea独自のサウンドなのだろうか?答えはもちろんイエスだ。そして、彼のサウンドはこのゲームにおいて他者を出し抜いているのか?この作品を聴くにつけ、確かにそうだろうとしか言えない。
  • Tracklist
      01. 1Game 02. Release 03. Trouble 04. Majestic 12 05. Time Bomb 06. Middleman 07. Aware 08. High
RA