Luke Hess - Keep On

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  • エレクトロニック・ミュージックの批評において、ダブ・テクノは不遇な立場を強いられ続けている。ディレイやリヴァーブといった手法的な部分が偏重されるがあまり、結果よりもプロセスが重視されてしまうことがその大きな一因だろう。だが、Luke Hessに関してはそれはあてはまらない。彼はダブ・テクノから出発したアーティストだが、彼はその音楽をより饒舌な枠組みにおいて仕立て上げてみせるのだ。彼のデビュー・アルバム『Light in the Dark』はまさにそうした妙技が詰め込まれた作品であったし、今回の新作『Keep On』でその技巧がさらに成熟したものになっていることを示している。 この『Keep On』は決して派手なアルバムではない。いや、むしろかなり地味な類の作品だといえるかもしれない。"Awareness - Reflections"は以前にどこかで聴いた事があるような錯覚をおぼえるかもしれない。そのヘヴィーなボトムはConforceやFred Pのスムーズで淀みないグルーヴを思い起こさせる、実によく作り込まれたトラックだ。鋭いスネアはここぞというところでタイミングよく重なってくるし、短めのブレイクも大げさな印象や冗長さをうまく回避している。ふつふつと泡立つようなシンセに重なるもうひとつのメロディーも実に美しく、このアルバムにおいてHessの巧妙なアレンジが余すところなく発揮されている。Thom Yorkeであれば「すべてが完璧に作用している」と表現するだろう。 このアルバムが傑出している点は、その運動性を操作する類稀な感性だ。Hessはキックドラムを単独で鳴らすことは滅多にせず、必ずその隙間を鋭いハイハットやスネアで埋めようとする。ごくシンプルなトリックではあるが、その効果は絶大だ。「何も起こっていない」と思わせておきながら、実はその水面下でトラックそのものの運動性は動き続けているのだ。このあたりは"Restored"や"Deep to Deep"において顕著に表れており、とりわけ前者のトラックは今年最もムーディーな濃度の高いダブ・テクノ・トラックと言っても良いだろう。いっぽう、"Deep to Deep"はダブ仕立てのテックハウス・トラックとでも言うべき好ましい仕上がりだ。 もうひとつ、"Direction"についても書いておかねばならないだろう。このトラックでは、狂ったアシッド・ラインが今年始めにリリースされたDelta Funktionen "Redemption"と同じ種類のマジカルさを思い起こさせる。奇しくもこのアルバムにはまったく同名の"Redemption"というタイトルのトラックが収録されているが、こちらの場合はじわじわとしたグルーヴがひたすら続く、泡が弾けそうで弾けないまま終わる。
  • Tracklist
      01. Awareness (Reflections Revisited) 02. Briefing the Defenders 03. Humility (Renew Your Mind) feat. Papa Smurf 04. Restored 05. Deep to Deep 06. Small Electronic Break 07. Incorruptible 08. Overcome feat. Jeff Hess (mixed by Omar S) 09. Direction 10. Break Through 11. Redemption 12. Inheritance