Jam City - Classical Curves

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  • このJam Cityによるアルバム『Classical Curves』だが、私が受け取った音源データには間違いがあったようだ。こうしたことはたまにあることなので、普段ならわざわざ言及などしないのだが、どうやらこのアルバムのテーマはインターネットや可塑性、リアリティといったものと関連があるようだ。そもそもデータに間違いがあった原因は、このアルバムがランダムに再生されることを前提として作られているという点にあった。不揃いなパーツだらけで構成され、かろうじて整合性を保っている(ほとんどの場合、まちがいなく整合性はあるのだが)このアルバムはまったく前例のないリスニング体験だ。アルバム中でも突出した存在感を放つ"Love Is Real"はまさにその極致と言うべきで、そのピーク感はリスナーを捉えて離さない。 この『Classical Curves』は便宜上こそダンスミュージック・アルバムとされているが、より正確に言うならば純然たるエレクトロニック・ミュージックとするべきだ。そのサウンドの色彩は、どこかTrevor HornのArt Of Noiseを現代版にアップデートしたかのような趣がある。かつてArt Of Noiseは未知の新しいサウンドを探求するために非常に高価な機材をもってそれを実現したわけだが、それから30年もの年月を経て、Jam CityことJack Lathamは現代の高機能なソフトウェアでその当時のサウンドを再現しようとしている。このアルバムには、人間らしいタッチの痕跡も聴かれる。"The Courts"ではワックス塗りの床をスニーカーの底が軋む音とともに、"Her"という単語がさまざまなニュアンスの声でリピートされる。それらのサウンドも、ガラスが割れる音やシンセサイズされたサックスの音色とともに絡んでいくにしたがって、じつに音楽的に聴こえてくるのだ。 膨大なリリース量を誇る(その割には作品ごとの当たり外れが大きい)James Ferraroなどのように、これと同様のアプローチを取るアーティストは多い。また、100% Silk勢のようにダンスミュージックからの視点でこうしたアプローチを行うアーティストもいるが、それが自然なカタチでDJセットに溶け込んでいるかどうかについては疑問の余地が残る(これはまた別の議論だろうが)。Lathamはしかし、そのどちらでもないルートで新たな地平を切り拓き、なおかつBen UFOのDJセットでも機能するような可塑性を獲得しているのだ。 その点こそ、この『Classical Curves』を傑出した作品たらしめていると言えよう。John Mausがポップを反語法的に援用することによってアンチ・ポップな作品を作り上げたように、Lathamはハウスやテクノ、UKベースなどの定型を使いながらそれと同じことをやってのけている(最近のインタビューにおいて、彼はこのアルバムの一部のトラックを「Kerri Chandlerの作品からその柔らかなオルガン・コードやベルのテクスチャーだけを抜き取って、そこにすごくパワフルなエレメントを被せるんだ」と語っていた)。Maus同様、これは彼が彼自身で編み出した方法論だと言えるだろう。今年リリースされた作品のなかでも、屈指の存在感を放つアルバムである。
RA