Juho Kahilainen - We Heard It Coming

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  • 2009年にPrologueからデビューを果たして以来、Juho Kahilainenが手掛けるプロダクションはどちらかといえば隙間の多い、空間を生かしたものであった。2012年も中盤を過ぎた今、このフィンランド出身プロデューサーはイタリアのM_Rec LTDが放つ新シリーズ、Grey Seriesから4トラック入りのグレー・カラーヴァイナル「Heard It Coming」をリリースした。 インフォ・シートに記載されている情報によれば、この新シリーズは「独創的なテクノ」をリリースするためのものだといい、その意図はKahilainenによるこの作品のAサイドにおけるノワール調のピアノ・スケッチや8分にもおよぶタイトル・トラックを聴けば明らかに理解できるはずだ。まるで雷鳴の音が広がっていき、そして静まっていく様子を思わせるような"We Heard It Coming"では空間全体に煌めくようなフリーケンシーが広がってヘッズを前後不覚にし、不規則に絡む303の音色と共にじわじわと低く進みながらクラップやノイズが実に悪辣なムードを演出する。 Bサイドでも同様のテーマが展開されている。"Rotko"では終始まばらなパーカッションが鳴っており、このEP中でも最もダイレクトなグルーヴを作り出しているのだが、白眉はその後の沈み込むようなマイナー・キーがその隙間を縫ってやがて抜けていく展開にこそある。"The Less We Try"での勢いのあるポリリズム的インタープレイや先のタイトルトラック同様のハイエンドでの印象的なブリープ音でこのEPはしっかりと締めくくられる。タイトルトラックと異なるのは、せりあがるようなシンセ・トーンが曇り空のようなムードを醸し出している点だろうか。多様性に満ちながらもKahilainenらしいフォームで統一されたこのEPはGrey Seriesにとっても実にソリッドなスタートとなったはずだ。
RA