Shed - The Killer

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  • 数多くの名義を持ちながら、そのなかでもShed名義の作品は一聴してすぐにそれとわかる、驚くべき個性を纏っている。ストレートなテクノであろうと、ダブステップやアブストラクトな作風であろうと、前作『The Traveller』にはどこをどう切ってもRene Pawlowitz独特のストーン・フェイス気味の眼差しが覘いている。過去に2枚リリースされてきたShed名義のアルバムはどちらも明確に違う個性を持った内容だったが、その後も新たな名義を増やし続ける彼が自身3枚目にして50 Weaponsからの初アルバムをリリースするということで、そのサウンドがどんなものになるのか興味は尽きないはずだ。そしてその答えは「いかにもShedらしいアルバム」だとしか言えない。 べつに文章で書き記すことが面倒というわけではないのだが、「いかにもShedらしいアルバム」という表現はおそらく我々が過去5年近くも彼の音楽に慣れ親しんできていているからこそそう言えるのであって、このアルバム『The Killer』自体はやはり驚きに満ちた内容になっている。アルバムの幕を開けるのは4分間のアンビエント・トラック。簡素なデトロイト調のコードに彩られ、曖昧なメロディがサウンドスケープ全体を呑み込んでいく。このアルバムでなによりも印象的なのは、まさにこの反復するメロディだ。それは"Gas Up"での催眠的なインタールードであろうと、繊細なシンセの破片がパーカッションと共に空間を舞う"I Come by Night"でのブルータルなサディスティックさでも等しく溶け込んでいる。また、"You Got The Look"のようなトラックでのある種キャッチーな親しみやすさには若干困惑させられる。ドラムが一定の展開で動き続け、そのバックには波状のメロディが絡む。間違いなくShedが手掛けたサウンドであることを感じさせつつ、同時に過去の彼にはなかったタイプのトラックだ。 かといって、アルバムの内容にはまったく案ずるような要素はなく、不可解なものもない。このアルバムにはいかにもこれまでのShedらしいフォーミュラが活かされつつも、これまで我々が知らなかった彼の側面を映し出そうとしているのだ。他のアーティストがこのサウンドを模倣しようとしても、そう簡単には真似できないだろう。その真似できない部分にこそ、Shedという個性の核心があるのだろう。それはまるで魔法のようなものだ。もし、Shedのサウンドを知らない人に彼のサウンドを説明するとしたら、このアルバムほどShedらしさに溢れた作品はないはずだ。過去における彼のスタイルを隈無く拾い上げつつも、このアルバムではそれらを繋ぎ合わせた結果としての多様性を提示しており、見事に花開いている。 それ以外のShedらしい個性も、このアルバムには溢れている。ぶら下がったような、コンスタントに形が歪んでいくような彼独特のブレイクビーツ使いも、穏やかなものからハードなものまで自由自在だ。彼の音楽的個性において最も発明的だったのは、過去の忌々しいレイヴ・サウンドを敢えて引用しつつ、それをまったく異なる文脈で作り替えて穏やかなトラックやデトロイト的なキラー・トラックに生まれ変わらせた点だろう。もちろん、このアルバムにおいても彼独自のレイヴ解釈がさまざまな形で埋め込まれており、それはポーカーフェイスで硬質な"Silent Witness"のようなトラックから軽やかでしなやかに浮かび上がるような"Phototype"まで、じつに多様性を持った形で表現されている。 彼が前アルバム『The Traveller』をリリースしたのは2010年のことだったが、彼はそれまでのトゥルー・テクノ然とした作風を封印し、あえてアルバム全体で物語性を表現することにチャレンジした。今回の『The Killer』もまた挑戦的な作品ではあるのだが、その沢山の別名義も含めてShedらしいサウンドが既に広く知られている以上、前2作のアルバムほどのインパクトの強さは無いと言わざるを得ない。とはいえ、Shed自身が彼独自のサウンドを依然としてキープしているのは明らかだし、他の凡百のダンスミュージックを置き去りにする突出した存在であることに変わりはない。
  • Tracklist
      01. STP3/The Killer 02. Silent Witness 03. I Come By Night 04. Gas Up 05. Day After 06. Phototype 07. The Praetorian (Album Mix) 08. Ride On 09. You Got the Look 10. V10MF!/The Filler 11. Follow The Leader