Pariah - Rift

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  • 2年前にArthur CayzerがPariah名義でEPを発表して以来、久々の新作。2年前の前作は当時のイギリスのダンスミュージックの先進的な部分を一度にかきあつめたかのような内容だったが、それ以来CayzerはBlawanとのプロジェクトKarennを組み、その作風はより直感的でストンピングなテクノへと転じた。Pariah名義を名乗った久々のリリースとなる本作「Rift」ではこれまでの彼個人の作風とKarennとしての作風があきらかなかたちでミックスされている。 タイトルトラックではぎこちない2-Step調のリズムに打ち捨てられた町工場のように不吉な残響音が溶け合って見事な調和を見せながら、そのトラックを荒々しく支配する分厚いサブソニック・ベースに呑み込まれていく。"Rift"のほぼ全編で鳴らされているシンバルは単なるパーカッシヴな要素のひとつというよりも、沸き立つようなスチーム・パイプのようにも聴こえ、強烈な効果を与えている。 "Signal Loss"の亡霊のようなヴォイスはいかにも当代的なUKプロデューサーらしいヴォイス処理といえそうだが、このトラックの最大の魅力はその摩訶不思議なトラック構造にこそあるはずだ。隙間の多いリズムがよろよろと進みながらも、毛羽立ったキーの繊細なタッチや不意に絡む囁くようなヴォイスがいったん重なりはじめると渾然一体としか言いようのない強度を見せるのだ。 控えめにスタートするこのEPだが、EP最後のトラックとなる"Among Those Metal Trees"はコンクリート・ジャングルの中から聴こえてくる鯨の鳴き声のようなパッドが配されてじわじわと盛り上がる。まるで90年代のSwansのもっともメランコリーだった頃を思い起こさせる。なんともダークな幕切れだが、EP全体の整合性という点では実に理にかなっている。その暗いトンネルのようなフィナーレには、一筋の光すらも見つけることが出来ない。
RA